「ヒット・ザ・ロード」
「ヒット・ザ・ロード」

 迫りくるゾンビたち。「残りの銃弾は6発、ゾンビは5体。切り抜けられるか…」。ゾンビ映画の「あるあるシーン」だ。そんな世界での旅を体験させてくれるボードゲームが、2016年にフランスで発売された「ヒット・ザ・ロード」(ホビージャパン)である。

 デザイナーはマーティン・ウォレス。プレーヤーは、崩壊した米国でゾンビと戦い、さまざまなアイテムを獲得しながらシカゴからロサンゼルスへと逃げる。勝者は西海岸まで生き残り、燃料や弾薬を多く所有する者。4人までプレーできるが、1人でも遊べる。

 まず、ランダムに並んだカードが示す複数の旅のルートから、一つを選択。カードの内容は大量のゾンビに追われる、仲間がゾンビにかまれる、武器を見つけるなど、ゾンビ映画やドラマで見るシチュエーションばかり。それらはプレーヤーが遭遇する出来事となる。

 記号が描かれたダイス(さいころ)を振ると、ゾンビを倒せるか、かまれるかなどの結果が決まる。ゾンビとのバトルもしっかり再現されており、スリリングである。

 とりわけ本作は、世界観を作り込むために面白い仕掛けがなされている。この「ヒット・ザ・ロード」そのものが「ゾンビだらけの世界で逃避行中に作られたゲーム」という設定を持つのだ。

 箱やコマ、カードなどは「手元にあった物を流用して作った感じ」にデザインされている。瓶の王冠、汚れたトランプ、使えないクレジットカード、車の鍵…。こうした工夫がプレーを一層盛り上げてくれる。

 近年、デジタルゲームのグラフィックスはコンピューターの性能向上によって格段に美しくなってきている。一方のアナログゲームも、それとは違った方向で発展してきた。デザイナーの創造力とプレーヤーの想像力が相互に作用し、豊かなゲームの世界が形作られている。(近畿大准教授)

  =毎週水曜掲載=