新型コロナウイルス感染拡大が続く中、菅政権は、企業に代わって国が休業手当を支払う雇用調整助成金を、雇用対策の中心に据えた。失業を抑えることはできたものの、支給決定額は約4・3兆円に膨れ上がり財源は枯渇寸前だ。困窮世帯向け支援は貸付制度がほとんどで、有識者からは「借金を増やしかえって自立を遠ざけている」との指摘も上がる。
大盤振る舞い
「雇用を守り、事業を継続させていくのが極めて大事だ」。昨年9月の就任会見の言葉通り、菅政権下の完全失業率は3%前後で推移した。5%を超えたリーマン・ショックやバブル崩壊後とは「雲泥の差」(厚生労働省幹部)で、有効求人倍率も常に1倍を上回る。
それを支えたのが、雇用調整助成金と休業支援金・給付金だ。縮減予定だった日額上限額は維持し、休業手当を受け取れない中小企業の従業員が国に直接手当分を請求できる同支援金の対象を、大企業にも拡大。緊急事態宣言発令地域では助成率を上げるなど「大盤振る舞い」(政府関係者)を重ねた。
各種推計では、これらの施策は完全失業率を1~2%超引き下げる効果があったとされるが、主に労使の保険料で賄う雇用保険は積立金がほとんど残っていない状態だ。制度の見直しや保険料引き上げに向けた動きが本格化しており、財源確保は新政権に重い宿題としてのしかかる。
菅義偉首相の関心が高い最低賃金も、平均28円増と過去最大額の引き上げを達成。ただ地方の中小企業を中心にコロナ禍の経営は厳しい。退陣で、現在検討されている中小企業向けの追加支援がどうなるかも不透明だ。
「自助」に重き
緊急事態宣言や自粛要請は、女性や非正規労働者が多い飲食業や観光業を直撃した。国会で「最終的には生活保護もある」と発言して批判を浴びた菅首相の支援策は安倍前政権を踏襲。「自助」に重きを置き、返済が必要な貸し付けの形を取った。
収入が減った人に最大20万円まで貸し出す緊急小口資金と、失業者向けに最大180万円まで貸し出す総合支援資金の貸付金額は、累計1兆円を突破。窓口となる社会福祉協議会からは「借金を重ねることが福祉なのか」と強い疑問が上がる。
7月からは貸付金を使い切った世帯に最大30万円を給付する制度を始めたが、その場しのぎとの批判は強い。NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの大西連理事長は「借金を重ねた後に給付金を配っても遅い。貧困から抜け出せるタイミングで、生活再建に使える給付金制度を創設するべきだ」と訴える。