「メンタリスト」と名乗って活動するDaiGo(ダイゴ)氏が、ホームレスの人や生活保護受給者への差別発言を理由に謝罪した。この発言の問題点について、生活困窮者支援の在り方などに積極的な提言をしているNPO法人「ほっとプラス」理事、藤田孝典さんに寄稿してもらった。
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DaiGo氏が猫の命と比較して「ホームレスの命はどうでもいい」「生活保護の人たちに食わせる金があるなら猫を救ってほしい」などと動画投稿サイト「ユーチューブ」で発言した。そのあまりの稚拙さに、私は言葉を失った。誰かに一方的に否定される命は存在しないと強調しておきたい。全ての命は無条件で価値がある。
すでに私たちの元に、ホームレス、生活保護利用者から「襲撃を受けないか心配」「生活保護を受けていて申し訳ない。死にたい」「精神疾患が悪化して眠れなくなった」など、30件近い相談が寄せられている。発言に不安を感じた人は多い。自死や襲撃を誘発しかねない危険な配信に怒りを禁じ得ない。
若年層を中心にユーチューブの影響力は甚大だ。多くの動画登録者がいるいわゆるインフルエンサーが、ある商品を紹介すれば、翌日に店頭で売り切れが続出するほどである。インフルエンサーが特定の命を軽視する発信をすれば、視聴者はホームレスへ刃(やいば)を向けるかもしれない。その際の「正当性」「正義」の根拠も得た気分になるはずだ。「DaiGoさんが言った正しい行為だ」と。
ただでさえホームレスは毎年、全国各地で度重なる殺傷事件の被害者になっている。昨年は東京・渋谷で女性ホームレスが殺害され、今年6月にも新宿で少年に男性ホームレスが暴行されたばかりだ。
価値がないと見なされた人間を容赦なく排除する日本社会がある。労働生産性が高いか否か、働いているか否か、どれほど稼いでいるのかなど、社会は常に人間を資本主義に順応しているか否かで価値付け、値踏みする。これは本質的に人間の生き方の自由や尊厳を抑圧する浅ましい価値観である。稼ぐことに追い立て、苦しい人々を生み出すことにもなる。
だから、人間は生きているだけで価値があるという人権思想や、具体的な生存権保障システムを築いた。歴史的英知といえる。これを軽視したり、否定したりすることは歴史への無知、冒涜(ぼうとく)であり、人間社会に対するテロリズムといってもいい。
さらに残念ながらDaiGo氏は、税負担の大きさで、自身を含む人間の価値を判断する危険思想に侵されている。税制は社会を相互に支え合うため、所得に応じて拠出すればいいだけであり、消費税を含め税負担は全ての人が応分に行っている。
新型コロナウイルス禍によって、誰でも危機状態になることが明らかになった。命は重く、それ故最大限尊重すべきものだと、改めて原点を見つめ直す機会にしたい。
ふじた・たかのり 1982年茨城県生まれ。社会福祉士。聖学院大客員准教授や反貧困ネットワーク埼玉代表などを務める。近著に「コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来」。