街の道路を走る車はすべて人工知能(AI)を活用した自動運転。交通事故や危険運転はなくなり、歩行者も安心だ。地下に張り巡らされた通路を宅配ロボットが行き来する。家庭で足りない物は自動で補充されるので食卓にはいつでも色とりどりの新鮮な食材が並ぶ。富士山が望める〝夢の街〟の上空では空飛ぶ車とドローンがせわしなく動き回っている。
トヨタ自動車が描く未来の実験都市「ウーブン・シティ」は、早ければ2024年にも住民が移り住み一部開業する。人や建物、車などあらゆるものをセンサーや通信機器でつなぎ、人々が実際に生活する街で新しい技術やサービスを絶えず検証する。完成という概念はなく、常に未完成なのが特徴だ。
「技術のためだけに技術を作るのではなく、人々の生活を助けるために技術を作る」。プロジェクトをけん引するトヨタ取締役のジェームス・カフナー氏は、未来都市は「人が中心」と述べ、開発の意義を語る。
静岡県裾野市に建設中で子会社のトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)の東富士工場跡地約70万平方メートルを活用する。広さは東京ドーム約15個分で明治神宮(東京都渋谷区)ほどだ。
先端技術を活用した街「スマートシティー」の計画は世界各地で進むがウーブン・シティが唯一無二なのは、私有地でゼロから街づくりに取り組む点だ。規制に縛られずスピーディーに実験を繰り返すことができる。
取り扱うテーマは移動手段や物流に加え、水素などの新エネルギーや農業、健康など多岐にわたる。住民は約360人で始め、2千人以上を想定する。高齢者や子育て世代が生活する中で困り事を洗い出す。技術者や研究者らが実際に住んで解決策を探る。
トヨタは街での実験を通じて生まれた技術やサービスを活用し、自動車に続く新たなビジネスにしたい考えだ。提携を希望する企業や個人は既に国内外から5千近く集まり、関心の高さをうかがわせる。
昨年1月の計画発表から、新型コロナウイルスの感染拡大や環境意識の高まりなど、地球規模で人々を取り巻く環境は大きく変わった。カフナー氏は「幸せで健康的な人間の生活をサポートする技術の重要性は増している」と指摘。「私たちには日本の未来、そして世界の未来のために投資できる資源と資本がある」と自信を示した。