トキのペア。2027年初夏に出雲市での放鳥が決まった(提供・出雲市)
トキのペア。2027年初夏に出雲市での放鳥が決まった(提供・出雲市)

 出雲は深い-。数々のベストセラーを残した作家・有吉佐和子(1931~84年)が小説『出雲の阿国』の取材で島根県東部の市町村を巡った感想だ。

 本人いわく、作家は小説の舞台に使った場所は勝手にイメージを膨らませるため再訪する気にならないそうだが<出雲だけは、幾度でも行ってみたい。時間をかけて、取材などという露骨な目的など持たずに、その景勝を眺めながら、子供の語る神話、老人の語る神話に耳傾けて、のんびりと過(すご)してみたい>とエッセー『神話の生きている国』に記す。

 出雲の神話性に引かれる旅人や移住者は確かに多い。それに負けず劣らず感嘆したとの声を聞くのが、大型水鳥がすぐそばで暮らす恵まれた環境だ。河口が広い斐伊川の下流に宍道湖と中海の二つの湖があり、周囲に水田地帯が広がるこの地域はツルやガンなど五つの大型水鳥が生息できる国内唯一の場所とされる。 

 豊かな餌場と安心できるねぐらがある証し。田んぼで落ち穂を探すコハクチョウが日常的に見られるのは本当にぜいたくだと思う。

 加えて先日の吉報。2027年初夏に出雲市でのトキの放鳥が決まった。受け入れ地区では20年前から減農薬減化学肥料の農業に取り組んできたという。朱色の羽が出雲の空を舞う日が本当に楽しみだ。ベストセラー作家のみならず、鳥たちにも「出雲だけは幾度でも行ってみたい」と思わせる地であり続けたい。(衣)