新型コロナウイルスの感染拡大で急増した自宅療養者の生活支援に向け、政府は都道府県に対し、市町村に必要な個人情報を提供するよう要請している。連携に向けた検討が進む一方、自分の感染を周囲に知られることを不安視する住民への配慮から、慎重な府県もあり、対応は分かれそうだ。
▽地域に密着
市町村との連携で先行しているのが神奈川県だ。4月以降、患者への食事提供などを実施する10市町村と覚書を締結。従来は県保健所の案内で患者本人が市町村に支援を申し込んでいたが、自宅療養者の増加を受け、個人情報を市町村に直接伝える仕組みになった。
このうち海老名市は1日2回の体調確認の電話に加え、食料品購入やごみ出しを代行。16日までに83世帯を支援した。市危機管理課の志村政憲係長は「地元スーパーと協定を結び、後払いで済むようにした。保健師が電話で患者の異変に気付き、救急車を呼んだこともある」と地域に密着した支援の意義を強調する。
神奈川県の自宅療養者は8月のピーク時は1万6千人超に達し、県の担当者は「食事の配送や健康観察など県の業務が逼迫(ひっぱく)する中、市町村には助けられた」と振り返る。
▽高い緊急性
厚生労働省によると、全国の自宅療養者数は減少傾向だが、9月15日時点で、いまだ6万人強となっている。
同省は6日、自宅療養者への生活支援は、生命や身体の保護の点で緊急性が高いとして、個人情報保護条例の例外規定の適用を検討するよう都道府県に通知した。
千葉、東京、愛知の3都県が市町村への情報提供を決めるなど、各地で検討が始まっている。東京都の武蔵野市、三鷹市などを管轄する多摩府中保健所は「自宅療養者へのきめ細かい支援が可能になる」(担当者)と期待する。
▽提供ためらう
差別や偏見を恐れ、提供をためらうケースもある。徳島県の担当者は「陽性になったことを知られたくないとか、情報提供は最低限にしてほしいといった要望も出ている」と明かした。
自宅療養者数が約150人の宮崎県は、感染者の年代など概要の公表にとどめており、誰が自宅療養者かは市町村には分からない。県の担当者は「福祉や生活支援が必要な人には、市町村の住民サービスを紹介している」と説明する。
それだけでは不十分との声もある。同県延岡市の担当者は「支援が必要かどうかの判断は県に委ねられているが、後になって市民から不満を言われることもある」と吐露。「提供が難しいなら、せめて支援の必要性を判断する場に市も入れてほしい」と訴える。
横浜国立大の板垣勝彦准教授(行政法)は「生活支援は住民に最も身近な市区町村が担うのが望ましい」と強調。懸念の声に対しては「本人の同意を前提に個人情報を提供することで対応できる」と指摘した。