連合の定期大会で芳野友子副会長が新会長に選出された。初の女性トップだ。長引くコロナ禍で雇用環境が変化し、厳しい状況に追い込まれている人も多い。とりわけ非正規労働者や女性にしわ寄せが及んでいる。苦境にある人の声をすくい上げ、労組が存在意義を発揮すべき局面だろう。
労働界ではナショナルセンター(全国中央組織)3団体のうち、全労連で昨年7月に小畑雅子氏が議長に就任。これに続く女性トップということでも注目を集めそうだ。
芳野氏はミシンメーカーの労組委員長で、中小の製造業などでつくる産業別労働組合(産別)「JAM」出身。3期6年務めた神津里季生前会長の後を継いだ。
会長選びは有力候補が固辞したり、出身産別の理解を得られなかったりして難航。官公労組と民間労組の確執を背景に、支援する政党が立憲民主、国民民主両党に割れていることも絡んで混乱が続いた。
JAMは旧同盟系・旧総評系労組の組織統一でできた経緯があって中立的なことから、芳野氏が適任との意見が広がった経緯がある。
組織内の対立は、多様な産別の寄り合い所帯である連合が発足以来抱えてきた構造的問題だが、混乱が尾を引くようなら連合自体の発信力低下につながりかねない。新会長の下、一体感を持って組織運営すべきだ。
神津前会長時代には衆院選を控えた2017年、小池百合子東京都知事が主導した希望の党への対応を巡り内部が分裂。立憲民主と希望に支持が割れて混乱し、神津氏への批判も高まった。他方、1989年の発足時に約800万人だった組合員数は、その後600万人台に減少したが、非正規の加入増加をてこに2019年に700万人台に回復した。
大企業の労組が中心で、非正規への対応が進んでいないとの指摘があった連合が、変容しつつある点は重要だ。
安倍政権の下では、14年に政府が経済界に賃上げを要請する「官製春闘」がスタート。最低賃金の引き上げも政府がけん引する形で実現された。連合からすると「お株を奪われた」との感が否めなかった。
とはいえ派手なパフォーマンスは無用だろう。処遇改善や職場環境向上に着実に取り組むことこそ労働組合の原点であり、連合の最大の役割はそうした労組、産別の活動の後押しだ。
内閣府の有識者研究会が4月にまとめた報告書は、賃金の低い非正規労働者には女性が多く、コロナ禍で打撃を受けた飲食・宿泊業での就業率も高いため、男性よりも影響が大きいと分析した。
他方、公立学校の教員の労働環境も注目されている。時間外労働に対し労働基準法が定める残業代を支払わないのは違法だとして、教諭が起こした訴訟の判決で、さいたま地裁は今月、現行制度が実情に合っていないとして「勤務環境改善を切に望む」と指摘した。
若年層は労組への関心が低く、労働者としての権利意識も弱いとの指摘がある。増加するフリーランスや外国人労働者への対応も課題だ。いずれも連合としてのさらなる取り組みが必要になる。
就任早々、衆院選が行われる。傘下労組の選挙への対応が連合内部の亀裂につながらないよう、かじ取りも求められる。