微細な針が並んだ紙のシートを腕に貼って体液を吸い上げ、センサーで抗体の量を検査する―。新型コロナウイルス対策に役立てようと、東大でこんな研究が進んでいる。蚊が人間の血を吸うのに似た方法で、元々は糖尿病予備軍の血糖値を測る目的で始まった。マウス実験や治験を経て実用化を目指す。
研究しているのは、東大生産技術研究所の金範〓(土ヘンに俊のツクリ)教授(53)のチームだ。「マイクロニードル」と呼ばれる、先端の直径が50マイクロメートル(1ミリの20分の1)以下、長さが1ミリ以下の小さな針を紙のシートに並べて加工。これを腕に貼ると、スポンジのような穴が開いた針が皮膚の下から「細胞間質液」を吸い上げる。
間質液がシートの反対側に付けたセンサーに到達すると抗体の量が分かる仕組みだ。注射による採血と異なり、痛みがない上に医療従事者でなくても使用できる。針は手術時の縫合に使う「溶ける糸」と同じ安全な成分で作られ、体内で分解する。
抗体検査では、コロナワクチンの接種や感染によってできた抗体の量を調べる。自分の感染リスクを判断するのに役立つほか、行政の集団調査への活用も期待できる。
マイクロニードルは、美容のためヒアルロン酸を肌に注入する化粧品として既に商品化されている。金教授のチームは血糖値測定の研究を先行させていたが、コロナ禍を受けて抗体検査の研究も並行して進めている。将来的にはワクチンなど医薬品の投与への応用も視野に入れる。
金教授は1993年に韓国・ソウル大卒業。98年に東大大学院の博士課程を修了し、フランス国立科学研究センター研究員などを経て2014年から東大教授。「マイクロニードルが医療分野で実用化されれば世界的なインパクトがある。できるだけ早く日本発で実用化したい」と話している。