「これを、頼んます」

 切迫早産で即日入院が決まった日、妻から「引き継ぎ書」なる一枚紙を託された。家事・育児の一日の流れを記したわが家の専用マニュアル。入院の可能性を考え、事前に準備していたという。

 見ると30以上のチェック項目が並ぶ。保育所用かばんの中身だけで7項目。加えて流し台の排水口ネットの取り替え、娘にお茶を飲ませるタイミングなど、それまで意識していなかった仕事がびっしり。自分が家事や育児にどれだけ関与していなかったかを具体的に突きつけられた気がした。

 「了解、大丈夫」と強気に言ってみたものの、時間の軸が完全に子ども中心となった2カ月間は、このときの予想をはるかに超えた。

 保育所のお迎えは原則、午後6時まで。時計の針をにらみつつ原稿を書き上げ、急いで保育所に向かう。その足で妻が待つ病院で面会。帰宅後はお風呂と食事、歯磨きをして寝室に移動した。ただし娘にも娘なりのペースがある。シャツ一枚着替えるのすら時間はかかった。ご機嫌をとるため立ち寄った公園から帰ろうとせず、日が落ち、途方に暮れたこともあった。

 夕食は当初、気合を入れて取り組んだが全く続かず、義母の差し入れや、スーパーの総菜に頼りきり。義父母が仕事の合間を縫って夕食、お風呂に招いてくれる日は心底救われた。

 抱っこや読み聞かせをしてようやく寝かしつけた後も、洗濯や保育所かばんの準備、連絡帳の記入と休む隙はない。気合を入れてラストスパートをかけた。

 そして朝がやってくる。グズる娘を時間通りに保育所に送り届けられるのか、日々不安だった。「自分しかいない」という重圧も生半可ではなく、まるで空気の薄い高地を走り続けているかのような気分だった。

 唯一、深呼吸できたのは職場にたどり着き、始業前にデスクでコーヒーをすする時間。「ふ~」。仕事が終わったかのような気分の自分が笑えた。