若者の投票率を上げるための方策を話す毎熊浩一教授
若者の投票率を上げるための方策を話す毎熊浩一教授

 衆院選の投開票が31日に迫った。国政選挙に限らず、選挙のたびに指摘されるのが、10~20代の若者の投票率の低さ。これまで、国や自治体、候補者が若者への投票を呼び掛けてきたが、目立った投票の増にはつながっていない。若者が投票しない理由は何か、投票率を上げるためには何が必要なのか。若者と政治の関わりを研究する島根大法文学部の毎熊浩一教授(行政学)に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

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 毎熊教授は若者の政治参加を促す活動に取り組む島根大の学生団体「ポリレンジャー」の顧問。学生とともに投票所に出向いて有権者から話を聞く出口調査や、学生向けに模擬投票を実施するなど、若者が政治に関心を持てるようさまざまな活動に取り組んできた。

 選挙権が18歳以上になった2016年以降に行われた国政選挙は3回。10代が初めて選挙権を得た国政選挙の2016年7月の参院選で、島根県の10代投票率は38・94%(県平均62・20%)、鳥取県の10代は39・52%(県平均56・28%)だった。続く17年10月の衆院選の10代投票率は島根県が38・50%(県平均60・64%)、鳥取県が38・45%(県平均56・43%)とやや低下。20年7月の参院選では島根県が28・11%(54.04%)、鳥取県が27・47%(49.98%)と大きく下がった。

▼社会と接する機会を

 若者の投票率はなぜ低いのだろうか。毎熊教授は大きく三つの理由を挙げる。

 一つ目は、若者は他の年代と比べて社会との接点が少ないこと。

 人は年を重ね、会社に入ったり、子どもができたりすることで地域や教育の問題を自分の問題として捉え始める。結果として国や自治体の政治に関心を持ち始める傾向にあるという。

 「決定に関わる取り組みを子どもの頃に経験すれば、大人になってからも積極的に物事に関わる姿勢ができる」と毎熊教授。例えば、校則を定める際に生徒同士が意見を出し合い、異なる意見を参考にしながら校則を考えれば、民主主義の基盤を意識できるという。

▼県外進学で選挙から離れる住民票問題

 二つ目は、住民票に関する問題。

 通常、選挙をする場合、住民票に登録された住所に投票所入場券が送付される。高校を卒業して県外の大学に進学した学生の多くは、住民票を実家のある市や町から移さないため、帰省しない限り進学先では投票できない。

 不在者投票といった救済制度はあるが、選挙管理委員会への書類請求や投票用紙の郵送が必要で、手続きが煩わしい。結果として徐々に選挙から離れていく。

 住民票の問題はとりわけ20代で大きい。高校在学中は教員や親の影響で選挙に行ったものの、大学生以降は選挙に行かなくなる学生が多いという。

 毎熊教授は「住民票に関する法律がある以上、簡単ではないが」と前置きした上で、「(住民票を移さなくても)学生は進学先で数カ月の生活実態があるなら、その地区の有権者と見なしていいのでは」と提案する。

「投票率を上げるなら投票に行くコストを下げる手段が必要だ」と説く毎熊教授

▼選挙に触れる機会の提供を

 三つ目はなじみの薄い選挙に対する心理的抵抗感。学生の中には「投票所がどんな所か分からないから行きたくない」との声がある。

 「ある研究では最初に1回投票に行った人は以降も行きやすいという結果が出た。逆に、投票に行ったことがない人はずっと行かない傾向にある」と毎熊教授。学校で選挙の知識を教えるだけでなく、模擬投票のように選挙を体験させる機会が必要になる。

 毎熊教授が説く最も有効な手段は「子連れ投票」だ。親が子どもを連れて投票所に行った場合、多くの子どもが大人になった時も投票に行くようになったという研究結果があるという。

 今後は大人がわが子に選挙を体験させる意識を持つことが重要になる。毎熊教授は「若者が政治に関心を持てないのはやはり親や大人の責任。単に投票率を上げるためならばやれることはたくさんある」と強調する。

▼コロナ禍の衆院選だからこそ投票を

 今回の衆院選は投票率向上の「追い風」が吹いている。

 日本財団(東京都)の意識調査で、10月末時点で選挙権を持つ10代の男女916人のうち、55・2%が衆院選に「投票する」「多分投票する」と回答した。10代投票率が40・49%(総務省調べ)だった17年衆院選に比べ、関心が高まっていることをうかがわせる。

 今月16日には、タレントの橋本環奈さんなど若者に人気の芸能人14人が投票を呼び掛ける動画が、ユーチューブで公開された。25日時点で59万回再生され、SNSで大きな話題になっている。

若者に人気の俳優やアーティストが投票を呼び掛ける内容の動画(ツイッター「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」より)

 背景にはやはりコロナ禍がある。毎熊教授は「新型コロナの影響で、自分たちの生活が政治方針に大きく左右されることを、多くの人が体感した。芸能人の動画も『今まで以上に選挙に関心を持ってほしい』という社会全体の動きを受けて出てきたものだ」とみる。

 国や自治体が飲食店への時短営業や県外移動の自粛などを要請し、一時期、日常生活は制限だらけになった。充実しない医療体制に不満を持つ人も少なくなかった。前回の選挙からの4年間で政治とカネや公文書管理の問題などがあった。毎熊教授は「政治はもっと誠実でないといけない。国民に説明する姿勢が見られない」と憤る。「コロナを通して政治がどれだけ身近なものか、有権者は身に染みて分かったはず。コロナ禍を機に、積極的に政治に関わっていってほしい」と呼び掛ける。

 若者が投票しないことで何が起こるのか。毎熊教授は「投票率だけが要因となる訳ではないが」としつつ「社会に新しい風を吹き込めるはずの若者が政治に参加しないことで、若者を含む社会全体が停滞する」と説く。若者が投票をしないことで政治家は若者に関心を向けなくなり、若者に向けた支援政策の比重が落ちていく懸念がある。政治家に関心を向けられないことで、若者がさらに政治から離れるという悪循環が生まれてしまう可能性も指摘する。「若者が選挙に参加しないことは結果的に自分たちの首を絞めることになる」と毎熊教授は警鐘を鳴らす。

▼若者が自発的に投票するためには

 毎熊教授は、大事なのは、若者が自発的に政治に関わろうと思って投票する姿勢だとし、単に投票を呼び掛けるだけの政治家やメディアには「本気で若者に選挙に参加してほしいならもっとできることがある」と苦言を呈する。

 具体的に投票率を上げるにはどうすればいいのだろうか。各候補に対して、選挙期間中に合同演説会を開くよう提案する。

 選挙期間中の合同演説会は公選法により、各候補の合意がなければ開けない。有権者にとって各候補者の政策を一度に聞けるのは貴重な機会。選挙公示前に公開討論会を行う候補はいるが、毎熊教授は「選挙期間中に政策を聞くことに意義がある」とし「多くの人に投票してもらいたいなら各候補が公示の翌日に自発的に合同演説会を開けばいい。しないのは政治家が本気を出していないからだ」と語気を強める。

 メディアに対しては選挙情報の積極的な提示を求める。新聞ならば紙面を選挙関連の記事を載せて終わりでなく、選挙期間中に各学校へ紙面を届けることで、若者が各候補の政策を知ることができると訴える。

 若者の投票率の低さの背景には、若者だけでなく、教育や政治、メディアの情報発信など複数の要因が絡んでいるとし、「大人は若者に対し、どんどん情報を提供し、新しい政治や決定のあり方を模索する必要がある」と毎熊教授。大人や地域社会を構成する各団体それぞれが、取り組みを考え、実践する必要性を説く。

略歴
 まいぐま・こういち 長崎県出身、九州大法学部卒。2000年に島根大講師になり、助教授、准教授を経て2019年から現職。

[特集]衆院選2021