漫画家の白土三平さんが89歳で逝去した。代表作の一つ『カムイ伝』に影響を受けた。35年前、通っていた中学校の図書館で手にしたのを機に、今も全巻を持っている▼江戸時代に「抜忍」となって追われるカムイ、聡明ながら百姓一揆のリーダーとして壮絶な運命をたどっていく農民の正助、藩の家老の嫡男でありながら政争に巻き込まれて一門を惨殺され、流浪の身となる武士の草加竜之進の3人が交わり、物語が進む。封建社会、身分制度の理不尽さを描くだけでなく、自然界の食物連鎖などテーマは無限に広がっており、何度読んでも初めてのような気がする▼長らく連載が止まっていたが、とうとう未完になってしまった。それぞれの理由で故郷を追われた3人が最終的には、蝦夷(北海道)へ渡り、アイヌ民族と共に松前藩の収奪に立ち向かう「シャクシャインの戦い」(1669年)に加わる構想だったことは、作者の死後に出た評論家・四方田犬彦さんの追悼文で初めて知った▼作品が世に出たのは学生運動がピークを迎えた1960年代で、階級闘争の在り方の一つとして読まれてきた。高度成長期を経た70年代以降の「1億総中流時代」では、自分ごととして読むには難解な面も少なくない▼翻って現代、コロナ禍で再び社会の分断が言われ始めた。『カムイ伝』は、理不尽な物事とどう向き合うかを考えるきっかけになるのではないか。(万)