修学旅行の夕食で、新型コロナ対策として離れて座り、黙々と夕食を食べる児童(資料)
修学旅行の夕食で、新型コロナ対策として離れて座り、黙々と夕食を食べる児童(資料)

 来週の金曜日は大みそかで、いよいよ年末年始がやってくる。島根県から帰省自粛の呼び掛けがなく、久しぶりにふるさとに帰る人が増えそう。山陰両県では新型コロナウイルスの感染者が11月から激減し、繁華街の人通りが増えてきた。新たな変異株「オミクロン株」が世界の脅威になる中、両県の担当者や医療従事者に、この年末年始の注意点を聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 山陰両県の感染者数は9月以降、大きく減った。島根県は9月251人、10月101人、11月13人。12月は23日時点で1人。鳥取県は9月193人、10月31人、11月1人。12月は23日時点でゼロ人。

 島根県の丸山達也知事は10日、年末年始の帰省自粛を求めない考えを示した。これまで帰省を控えた人も、今回は久しぶりにふるさとに帰る計画をしているのではないだろうか。

 感染者減少と山陰両県出身者の久しぶりの帰省は喜ばしいが、油断はできない。東京都では22日、感染者が67日ぶりに40人を超えた。群馬県や神奈川県は11月の1週間平均が10人台だったが、22日時点で20人を超え始めた。北海道や沖縄でも感染者増加の兆しがある。

 世界で感染者が急増している「オミクロン株」の国内感染者も確認され始めた。大阪府では22日、海外渡航歴がない3人のオミクロン株感染が発表され、岸田文雄首相は「市中感染の事例として受け止め、対策を徹底する」とした。山陰両県の感染者は激減し、街はクリスマスやお正月ムードだが、関東や関西など大都市からの人の往来が増える年末年始は、あらためて感染防止の意識を徹底する必要がありそうだ。

 

 ▼4千人がオミクロン株濃厚接触者に

 島根大医学部付属病院(出雲市塩冶町)の呼吸器内科の礒部威教授(60)は「コロナが収束したと思うのは大きな間違い。残念ながら正月明けにも第6波が来る可能性がある」と警鐘を鳴らす。

第6波を見越した感染予防策の徹底を呼び掛ける礒部威教授(提供写真)

 礒部教授によると、オミクロン株は重症化の危険性が比較的低いとみられる半面、感染力は第5波(6~9月)で猛威を振るったデルタ株の5倍とされる。オミクロン株の濃厚接触者は21日時点で国内に既に約4千人いるという。

 礒部教授は細かな接触者はさらに多くいるとみて「ワクチン接種が進む欧州でも、感染者の大半がオミクロン株に置き換わりつつある。このままでは日本でもあっという間に広がる」と警戒する。

 オミクロン株の感染拡大の脅威は、遠い海外の話と思いがちだが、国内でも差し迫った状況になってきているようだ。山陰両県で連日、感染者がゼロ人だからと言って、警戒を緩めることはできない。

 

 ▼これまでの感染対策の徹底を

 第6波を防ぐためには、礒部教授は「とにかく予防を徹底するしかない」と訴える。

 既に感染者が増えつつある北海道、関東、愛知、関西、福岡、沖縄から来県する人は「いつ発症してもおかしくないとみた方がよい」とし、接触を避けることを勧める。親族がこれらの地域から帰省してくる場合は、家でもマスクをしたり、食事の時間をずらしたりといった対策が必要になる。

 帰省や旅行で山陰に来た家族や友人と会食や飲み会の予定がある人もいるだろう。礒部教授は注意点として「会食はワクチンを2回接種したかどうかと、2週間以内の行動歴が分かる人とだけするのが望ましい」とする。両方が当てはまっても「3密」の回避を忘れず、会話はマスクをした方が安全だそうだ。

修学旅行の夕食時、 新型コロナ対策で離れて座り、黙々と夕食を食べる児童。徹底した対策を取っていた頃の意識を取り戻す必要がある(資料)

 年末年始に発熱や喉の痛みといった症状があった場合は風邪だと思わず、すぐに病院に電話した上で診察を受けるべきだという。今季のインフルエンザは、オミクロン株の流行で海外からの流入を遮断したため「(今季の)インフルエンザは流行しない。症状があったらコロナかもと思ってほしい」と注意を促す。

 礒部教授は「島根県民はワクチン接種率が高く、対策もしっかりしているので、対策を続ければ感染拡大を防げるかもしれない。感染者が多かった時と同じつもりで、感染防止を意識して年末年始を過ごしてほしい」と呼び掛けた。

 島根県立中央病院(出雲市姫原4丁目)の感染症科部長、中村嗣医師(58)も「気を抜かないでほしいという一言に尽きる」と引き続いての警戒を求める。

 家に帰ったり、親戚の家に行ったりすると、マスクを外し、手洗いも怠りがち。中村医師は基本に立ち返り、マスクはもちろん、手指の消毒や換気といった感染対策の実施を呼び掛ける。「安心するのは良いことだが、気の緩みが最大の感染のポイント。できることをきちんとすることが大事」と強調した。

 

 ▼山陰にも近づく第6波の足音

島根県庁(左)と鳥取県庁。ともに感染者は20日以上確認されないが、油断すれば年明けに一瞬で感染が拡大する可能性がある

 島根県で21日、オミクロン株の疑いがある感染者の濃厚接触者1人が、初めて確認された。感染者と同じ航空機で海外から帰国した。現在は宿泊療養施設で経過観察中だ。

 県は11月19日、飲食店での利用人数や時間の制限を撤廃した。年末年始では飲食店の利用増が見込まれるが、県感染症対策室の田原研司室長は「引き続き、一人一人の感染対策が大事。感染対策が施された新型コロナ対策認証店を利用するといった、警戒は続けてほしい」と呼び掛ける。

 鳥取県では12月18日にオミクロン株の疑いがある感染者との濃厚接触者5人が、20日にはさらに1人が確認された。いずれもPCR検査の結果は陰性だったが、県の宿泊療養施設で経過観察する。

 山陰両県で、第6波の足音はすぐそこまで来ている。

 鳥取県新型コロナウイルス感染症対策推進課の荒金美斗課長は、年末年始に向けてあらためて注意を喚起する。「飲み会では大皿や箸の共有を避け、換気をし、基本的な感染対策をいま一度意識、徹底してほしい」とした。

 

 医療関係者に話しを聞き、山陰両県でも水面下で第6波がひたひたと迫ってきているようだ。この年末年始は久々に帰省した家族や友人との和やかなひと時を楽しみながらも、感染への懸念を忘れないように過ごしてほしい。