松江市内の訪問看護ステーション(今年9月)
松江市内の訪問看護ステーション(今年9月)

 新型コロナウイルスの感染者はこのまま減っていくのか、それとも、冬にもう一度感染者が増える「第6波」が来るのか。山陰両県は「第6波」を想定し、感染が再び拡大しても医療の逼迫(ひっぱく)を避けられるよう対策に乗り出している。対策と感染者を受け入れる総合病院の取り組みを紹介する。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 <上> 第6波は来るのか? 昨冬は感染者増、今年は

▼病床数を増やし、自宅療養支援も強化

 島根県は11月9日、県内29の医療機関に確保する専用病床計324床を26床増やし、350床とする目標を発表した。1日あたりの最多療養者数の想定をこれまでの320人から450人に改め、自宅や宿泊施設での療養を組み合わせて、12月から運用を始める。第5波の際の最多療養者は276人だったが、さらに態勢を強化した。

 背景には、第6波への危機感がある。島根県感染症対策室の田原研司室長は「第6波が来た場合、海外のように新たな変異株が出現する可能性があり、今以上の病床の備えが必要。医療機関の通常医療に影響が出ないよう、調整してもらいながら目標数を用意したい」と話す。

 島根県健康福祉部の公衆衛生医師、谷口栄作・医療統括監は、第6波に対して「シンガポールのようにワクチン接種が8割以上完了した国でも感染が続く。(第6波は)当然来るもの」と警戒する。専用病床数を増やすとともに「2点に重点を置いて対策の準備を進める」とする。

 一つ目は自宅療養の支援の強化。自宅療養者の看護や診療をする医療機関や訪問看護ステーションに対し、費用を助成する。オンライン診療に使うパソコンや防護服の購入費に対する初期経費を支援し、オンライン診療の場合は上限20万円、訪問診療や訪問看護をした場合は上限50万円でそれぞれ支援する。

 訪問看護ステーションの電話による健康観察では、熱の有無や血中酸素飽和度といった健康状態を1日2回以上、入念に聞き取る。訪問看護ステーションの健康観察は診療報酬の対象外だが、新たに県の委託業務とし、受け持つ患者1人につき県が7千円を支払い、夜間対応では2万6千円を加算する。看護や診療に乗り出す訪問看護ステーションと医療機関を増やし、第5波の時よりも多くの自宅療養患者が発生しても、幅広く対応できる態勢を整える。

松江市内の訪問看護ステーション。第6波が来た際、現場の負担増が課題となる(今年9月、資料写真)

 事業費には国の交付金を活用し、計1億1100万円を充てた。県は支援制度に加え、医療機関や訪問看護ステーションとの連携を通し、最大200人規模で自宅療養者の健康観察ができる態勢を見込む。谷口医療統括監は「支援を増やすことで、療養体制を質的にも量的にも強化する」と話した。

 

 ▼保健所業務の負担軽減

 二つ目は保健所の体制強化。保健所職員の重要な業務は感染者の追跡調査や、感染者の接触者への連絡をすること。追跡調査や連絡に集中できるよう、保健所が抱える業務の一部を他の機関に委託することで、保健所業務の負担を軽くする。

 患者の病院への移送には最低1人は付き添う必要があり、これまでは保健所の職員が付き添った。付き添いを代わりの人員に委託することで、保健所の負担を減らす。

 保健所職員の手が可能な限り空けば、感染が発生した際、より迅速に感染者や接触者の把握がしやすくなる。迅速かつ幅広く追跡、検査することで、感染者が他の県民と接触する可能性を減らすことが狙いだ。谷口医療統括監は「保健所が最もやるべき業務を優先的にできる体制を整える」と力を込めた。

 

 ▼宿泊療養施設を臨時の医療施設に

 鳥取県では鳥取県医師会や鳥取県看護協会を交えた医療体制協議会を10月に開き、第5波の際の課題を洗い出した。県の新型コロナウイルス感染症対策推進課の荒金美斗課長は「第5波以上の感染状況になる想定で各所と調整している」とこの冬の感染拡大に備える。

 第5波の際には宿泊療養中や自宅療養中に患者の症状が悪化し、医療機関に入院した例があった。対応として、医療行為ができる臨時医療施設を宿泊療養施設内に設置するよう検討する。療養中、仮に症状が悪化してもスムーズに治療にあたることができ、通常の医療機関に負担がかかりにくい。臨時医療施設には新たに医師や看護師の配置が必要になるため、医師会や看護協会に協力を頼んだ。

 同時に自宅療養体制の強化も進める。これまでは訪問看護師や保健所の保健師が症状を聞き取り、医師が電話で診療したが、症状によっては医師が対面で診療するよう調整を進める。今後、感染者が増え、全員入院の方針を転換しなくてはならない事態を想定。宿泊療養と自宅療養の質を高め、入院患者以外の患者にも手厚い治療ができるよう、態勢を整備する。

 

 ▼通常医療への影響を抑える策は

 患者を受け入れる医療機関の対応はどうだろうか。島根県立中央病院(出雲市姫原4丁目)はコロナ感染者の受け入れ先として、基礎疾患のある患者や中等症以上の患者を受け入れてきた。第6波に対し、感染症科部長の中村嗣医師(58)は「冬はウイルスにとって活動しやすい時期。どの程度の波になるかは分からないが、何かしらの波は来る」と推測する。

島根県立中央病院

 実施してきた感染対策と治療方法の徹底を図るという。第5波の際は、県内の医療機関で連携を図って、軽症者は各病院に振り分け、重症者を治療できる県立中央病院の病床を可能な限り空けて対応した。中村医師は「治療や人員の体制は整っている。第6波が来れば、病院としては粛々と対応するだけ。県民の皆さんには油断せずに感染対策を取り続けてほしい」とあらためて注意を喚起した。

 島根大学医学部付属病院(出雲市塩冶町)では院内感染のリスクを減らすため、新たに敷地内の駐車場に設置した「トリアージ検査センター」の運用を11月1日に始めた。センターで、入院や手術をする前の患者がコロナに感染していないかを調べる。これまでは院内の専用スペースや検査室で検体採取や検査をしていたが、院外で一括して感染の確認ができるようになった。院内感染が起これば、医療業務にあたる医師や看護師が感染し、医療サービスを提供できなくなる恐れもある。コロナ治療と並行して通常の医療も確保するための対応で、椎名浩昭病院長は「患者数の急増に備えるため、最重要なのは院内感染によって病院が機能しなくなるという事態を避けるための対策だ」と検査センター設置の意義を説く。

島根大学医学部附属病院の敷地内に設置されたトリアージ検査センター

 鳥取大医学部付属病院(米子市西町)では第5波の患者急増の際、通常医療への影響を抑えるため、コロナ患者専用の特別外来を開設。比較的症状が軽い陽性患者を診察し、入院か自宅療養、宿泊療養かの必要性を効率的に判定した。第6波へ向けては島根大学医学部付属病院と同様にトリアージセンターを設置し、外来患者と入院患者の問診や、重症度に応じたコロナ患者の振り分けができるような態勢を構築する予定だ。鳥取県ではこのほか、コロナから回復し、後遺症に悩む患者向けの専門外来が、鳥取大医学部付属病院、県立中央病院(鳥取市江津)、県立厚生病院(倉吉市東昭和町)に設置された。患者へのケアとして相談から治療までを一貫して対応する。通常医療への影響を最小限にするため、医療機関もさまざまな対策を講じる。

 

 ▼発熱したらどうしたらいい?

 冬になると風邪をひきやすくなる。熱が出たら、コロナ患者と思われるかもしれない。これからはインフルエンザも心配だ。風邪やインフルエンザは症状が発熱やせき、くしゃみなどコロナに似ていて、どう対応すればいいのか。

 鳥取県の荒金課長は「これまでと同様に、発熱があれば医療機関に連絡してから診療に行ってほしい」と話す。インフルエンザとコロナを症状で判別するのは難しいため、発熱患者には、積極的にコロナに感染していないか検査をするよう県が医療機関に依頼した。島根県も同様の対応だという。自身がインフルエンザだと思っても、医療機関にかかる際は事前連絡した上で行くのが望ましい。

 

 第6波は来るものと心構えをしておいた方が良さそうだ。この冬の全国の感染者数の動向は注意深く見守る必要がある。日常生活では手洗いやうがい、マスクの着用などの感染対策を継続して、この冬を乗り越えたい。