島根県新型コロナ対策認証店に貼られた認証マーク
島根県新型コロナ対策認証店に貼られた認証マーク

 新型コロナウイルスの感染防止策と安全安心な飲食店利用を両立するため、感染対策を実施した店舗を認証する制度が広がっている。山陰両県では、島根県が「島根県新型コロナ対策認証店制度」を9月に導入し、認証店が増えている。「感染対策がしっかりできている」というお墨付きがあれば、利用する側は安心して飲食を楽しめる。基準を満たした飲食店ではどんな対策がとられているのか。認証店を訪ねた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
 

 飲食店やスナックの多くは「感染リスクが高い場」と見られてきた。山陰両県の飲食店ではクラスター(感染者集団)が22件発生。利用客の足が遠のき、深刻な打撃を受けた。

 島根県は、最大43項目の感染防止対策基準を満たした店舗に認証マークを交付する制度を開始した。10月26日現在で176店舗を認証店として専用ホームページで公開している。設定した43項目には、利用客への手指消毒の呼び掛けや対人距離の確保を徹底する▽湿度40%以上を目安に適度に加湿する▽歌唱中はマスクを着用するよう定期的に呼び掛けるーなどがあり、県の調査員が直接訪れて確認する。認定するのは、基準を全て満たした店だけ。

 鳥取県でも「新型コロナ安心対策認証店」認証制度を2020年6月に導入し、マスク着用の確認や消毒、換気の徹底といった計62の基本項目を満たした店に認証ステッカーを交付している。対象は飲食店や理美容業、宿泊業で、10月26日時点で2672店が認証された。

 

 ▼複数のアクリル板に注意書きも

日本庭園・由志園内の日本料理店「竹りん」の店頭に貼られた認証マーク

 大根島名産のボタン園で有名な日本庭園・由志園(松江市八束町波入)にある日本料理店「竹りん」。庭園の景色を楽しみながら、地元産のソバ粉でつくる手打ちソバや、季節料理を楽しめ、観光客から人気が高い。

 店に入って最初に目についたのは全座席に並んだ、飛まつを防ぐアクリル板。座席の対面に板1枚を置く形式は、他の飲食店でよく見るが、4人席では隣に座る人との間にも板がある。

座席に立てられたアクリル板。対面だけでなく隣からの飛まつも防ぐ

 座席には「飲食時以外はマスクを着用してください」「大きな声での会話は控えてください」の注意書きがある。犬谷秀久支配人(58)は「もし、声が大きいお客さんがいれば失礼のない範囲で店員が声掛けする」と言う。

 設備を整えて終わりではなく、小まめな確認を徹底する。サービス業は特に、利用者に制限を掛けるような声掛けが難しい。注意書きや実際の声掛けがあると、利用者としても「ちゃんとしなければ」と意識が芽生えるかもしれない。

机の上ではしまねっこが「飲食時以外は、マスクを着用してください」「大きな声での会話は、控えてください」と呼び掛ける

 出入り口に加え、トイレにも消毒液を設置した。接触感染の危険性を減らすため、机の上のつまようじを店舗中央に置いてセルフサービスにしている。利用者の連絡先を書いてもらう入店管理簿と換気のタイミングが分かる二酸化炭素濃度の測定器も導入した。

 

 ▼認証マークに客からも安堵(あんど)の声

 コロナ禍で島根県を代表する観光施設の由志園が受けた打撃は大きく、2020年3~5月は一時休業した。個人客の利用は週末を中心に回復してきているが、大部分を占めていた県外からの団体客は依然として厳しい。犬谷支配人は「コロナ以前は1日平均10~15台は観光バスが来たが、今は1日数台。バスの感染対策で1台あたりの乗員数も減った」と明かす。

 対策に取り組んで、店の手間は増えた。アクリル板があると、配膳に従来よりも手間が掛かる。入店管理簿は個人情報を理由に断られるケースもある。手間がかかるのを承知で認証店に申請した理由は「来店者に安心して楽しんでもらいたいから」と犬谷支配人は話す。

 来店客からは、認証マークや店内の感染対策の徹底ぶりを見て「これなら安心だわ」と声が掛かる。店内の注意書きなど対策を見てか、大きな声で話す人はおらず、従業員にとっても安心して客をもてなせる空間になったという。犬谷支配人は「これから秋の観光シーズン。認証制度が観光客増の後押しになればうれしい」と期待した。

 

 ▼飛まつ対策で専用マイク?

 次にスナックの認証店に行ってみた。スナックは酒の入った状態の客が来店することが多く、検温すら大変そうに見える。通常の飲食店よりも店員と客の距離が近く、カラオケでは飛まつが拡散する危険性がある。飲食店と同じ対策では不十分に思えるが、どう対処しているのだろうか。

スナックの「シルクロード」。37年続く昔ながらの店だ

 松江市末次本町のスナック「シルクロード」の店員、島津由紀子さん(56)は「お客さんに押し付けがましくならないよう意識する」という。

 客が来店した際には「飲み過ぎましたか?顔色が悪いですね」「顔から湯気が出ていますよ。体温測っておきますか」と冗談を交えながら、非接触型の検温器で発熱の有無を確かめる。スナックならではの話術を駆使することで、客は上機嫌のまま検温に協力してくれるという。

 座席では完全な対面にならないよう、アクリル板を隔てて斜め向かいの席に座って接客する。コロナ以前は客の隣の席に着いて接客したが、感染リスクの観点からやめた。島津さんは「いつもしゃべり過ぎるからアクリル板があってちょうどいいくらい」と明るく笑う。

席に着く島津由紀子さん。客がいる時は対面にならないよう斜め前に座って接客する

 カラオケに使うマイクにはガーゼをかぶせて前面を保護フィルムで覆い、飛まつの拡散を防止する。歌う場所はアクリル板に囲まれた専用のスペース。マスクをしたまま歌うよう声掛けする。コロナ前の自由気ままに歌う姿とは別世界のようだが、安全にカラオケを楽しむには工夫も欠かせない。

感染対策をとった特別仕様のマイク。重さは通常のマイクとほぼ同じで、歌唱に支障はない。持ち手の部分はその都度消毒する

 ▼「安全に楽しんでほしい」

 コロナ前は宴会終わりの団体客が2次会に利用するのが主だったシルクロード。県内初のコロナ感染者が確認された昨年4~5月は、感染防止のために休業に追い込まれた。現在は常連の個人客が来店するが、コロナ前の2割程度にとどまる。

 店員と客の距離が近く、感染リスクが高い業種だと思われているからこそ感染対策に力を入れ、認証を得た。対策を「煩わしい」と言う客は1人もおらず、認証以降に客とのトラブルは起きていない。

 団体客が少ないため、まだ恩恵の実感は薄いが「認証店が増えていけばお客さんも安心して外に出るようになる。スナックは楽しんでもらわないと意味がない。安全に楽しんでもらえるよう、できる限りの対策をしてお客さんを迎えたい」と島津さんは前を向いた。

 

 取材で訪れた、観光地の料理店とスナックの認証店の感染対策は、ビジネスとの両立に向けて、細部にまで工夫が見られた。認証店という基準があることで、利用者側の安心につながるだけでなく、店舗側が十分な感染対策に取り組む動機付けにもなっている。飲食中は客や従業員との距離を保つ、大声での会話を控えるといった、利用者側のマナーも認証店制度を機能させていくカギになる。利用する側の私たちも気を付けたい。<下>では、多くの人が家族や仲間と手軽に利用するレストラン、居酒屋の認証店の対策について紹介する。