島根大でワクチン接種を受ける大学生。第6波に備え、山陰両県の自治体がさまざまな手法で接種を進める
島根大でワクチン接種を受ける大学生。第6波に備え、山陰両県の自治体がさまざまな手法で接種を進める

 国内の新型コロナウイルスの感染者が急減した。山陰両県でも、新規感染者ゼロ人の日が続き、飲食店利用の緩和や観光キャンペーンが再開された。感染者の急減はうれしいが、このままの状態が続くのだろうか。これから冬を迎えると、再び感染が拡大し「第6波」が来るという予測もある。山陰に第6波は来るのか、第6波が来た時の備えは大丈夫なのか。両県の新型コロナウイルス対策担当者と、感染者を受け入れる総合病院の医師に聞き、2回に分けて伝える。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 <下> 第6波への備えは? 病床増、自宅療養支援…進む対策

 ▼8月に感染激増、9月と10月は急減

 まず、第5波を振り返ってみる。山陰両県の夏の感染者は感染力の強いデルタ株の流行で急増した。島根県では7月に感染者が185人(前年同月5人)、8月には629人(同108人)にまで急増し、8月の感染者はこれまで月別過去最高だった5月(189人)の3・3倍。鳥取県の7月の感染者は293人(前年同月12人)で、6月の15人(同0人)から約20倍になり、8月は671人(同7人)で島根の同月の感染者数を上回った。

 9月に入ると感染者は島根県が251人(同3人)、鳥取県が193人(同13人)と両県ともに8月の半分以下に。10月は島根県が101人(同1人)、鳥取県が31人(同3人)で、両県で感染者0人の日が出始めた。鳥取県の新型コロナウイルス感染症対策推進課の荒金美斗課長は「正直、減少の明確な理由ははっきりとは分からない」としている。

 島根県健康福祉部の公衆衛生医師、谷口栄作・医療統括監はワクチン接種の普及を要因に挙げる。内閣官房や山陰両県のまとめによると、両県での一般接種は4~5月に始まり、65歳以上の2回目接種率は、島根県が91%(11月6日時点)、鳥取県が90%(11月6日時点)になる。12~19歳は、島根県が46%(10月21日時点)、鳥取県が65%(11月6日時点)、20代は、島根県が55%(10月21日時点)、鳥取県が69%(11月6日時点)。
 

島根県庁(左)と鳥取県庁


 感染者が増える際は、感染した1人から数人にウイルスが感染し、さらにその数人がそれぞれ別の人へと感染を繰り返して広がる。谷口医療統括監は「接種者が増えたことで、感染者が発生してもどこかで連鎖が止まり、以前ほど拡大しなかったのではないか」とみる。

 感染力の強いデルタ株が流行した今年の夏はクラスターを確認後、クラスター関連で感染者が続発する事例が相次いだ。谷口医療統括監はワクチンの普及が始まったばかりだった第4波(今年3~6月)を振り返り「当時でも感染者は今回ほど急激に減らなかった。人の流れが大きく変わった気はしない。普及が進んだワクチンの影響が大きいだろう」と分析した。

 国立遺伝学研究所と新潟大の研究チームが10月、全国的に感染が減少した要因に新たな説を提唱した。ウイルスがデルタ株に変異した際に遺伝子情報の変異を修復する役割を持つ酵素が変化し、変異の修復が追い付かずに死滅したからだと見立てた。谷口医療統括監はこの説に懐疑的で「修復が追い付かずウイルスが死滅したのならば、感染拡大している海外はもっと減少するはず。詳細が分からないので現時点では何とも言えない」と慎重だ。

 ただ、新潟大研究チームの説が事実だった場合であっても、別の変異株が国内に流入することで再び感染が広まる恐れがあり、冬に向けての対策は欠かせない。

 

 ▼昨冬は感染増加の動き

 

 昨冬の感染者数の動きに注目した。当時、全国をコロナの第3波(2020年11月~21年2月)が襲い、各地で感染者が増加した。

 昨年の山陰両県の感染者はクラスターが発生した時期を除けば、多くの月で1桁台だったが、第3波では全国と同じく増加した。昨年12月の感染者は山陰両県ともに61人で、今年1月は島根県が60人、鳥取県が80人と、両県で感染者が60人を超えた。

 ウイルスの詳しい生態はまだ謎が多いが、冬になると活動が活発になるとみる専門家は多い。谷口医療統括監は「冬は空気が乾燥するため、ウイルスが水分を含まず、空気中に長く漂うことができる。コロナはまだ分からないが、多くのウイルスにとって活動しやすい時期なのは確かだ」とする。この冬はどうなるのだろうか。やはり、心配になる。

 

 ▼第6波に向け制度創設、医療体制整備

 第6波について、山陰両県の担当者はともに「当然、来ると想定して対策を進める」と口をそろえ、療養体制を強化する。

 第5波により感染者が激増した今年7~8月には医療の逼迫(ひっぱく)を避けるため、感染者を全員入院とする方針から転換した。軽症者を対象に宿泊療養と自宅療養を取り入れた。

 島根県では入院患者が7月から徐々に増えたことを受け、8月18日に全員入院方針を転換。21日には入院患者数が181人になり、確保病床(324床)の使用率が50%を超える危機的状況に陥った。谷口医療統括監は「死亡する可能性がある重症者、基礎疾患を持つ患者が入院できないという事態だけは避けなければ、という思いだった」と振り返る。

8月と9月の感染者数の急増ぶりを説明する谷口栄作医療統括監

 鳥取県は7月以降の感染者の増加を受け、島根県よりも早い7月下旬から方針を転換し宿泊療養と自宅療養を取り入れた。早期の方針転換により7~8月の病床使用率は最大35%程度だったが、8月29日には確保病床337床に対し、入院患者と自宅療養者、宿泊療養者を併せた患者総数が262人になった。仮に全員入院だった場合、病床使用率は77%で、病床が埋まる危険が迫っていた。両県とも、第6波が来て、感染者が第5波以上になれば、医療の逼迫(ひっぱく)が懸念される。

 対策として、島根県は県内29の医療機関に確保する専用病床324床を26床増やし、350床とする目標を発表した。1日の最多療養者数の想定をこれまでの320人から450人に改め、自宅や宿泊施設での療養を組み合わせて体制の強化を目指す。自宅療養を支援するため、新たな助成制度も創設した。自宅療養者の看護や診療を行う医療機関や訪問看護ステーションに費用を助成する。

 鳥取県は10月上旬に、県の医師会や医療機関を交えた医療体制協議会を開き、第5波の課題を洗い出した。これを受け、病床を補完する策として、医師と看護師を配置した臨時医療施設を既存の宿泊療養施設内に設置する。

 

 ▼若者の接種増へ工夫

 感染拡大防止の鍵を握るワクチンについては、高齢者と比べて接種率が低い若年層の接種促進に、山陰両県の主要な市が取り組む。松江市では夏休み期間を利用して、市内の高校や大学、専門学校で集団接種を実施し、生徒や教職員8千人以上が接種した。さらに接種を進めるため、小学6年生と中学生の保護者向けに、市教育委員会を通してワクチンの接種会場や日程を知らせる文書を送付した。市新型コロナウイルスワクチン接種実施本部の狩野勝、総務・広報グループリーダーは「若年層に接種の機会があることを広く知らせ、接種希望者に安心してもらいたい」と話した。

島根大の集団接種でワクチンを打つ大学生

 米子市は高校や大学の受験を控える受験生が早期のワクチン接種を希望する場合、優先的に接種してもらうよう調整し、受験生は可能な限り早く接種できるようにする。鳥取市ではホームページに「若者のワクチン接種」というページを設けた。若者に対するワクチンの効果や副反応についてイラストや図で分かりやすくまとめ、若年層が接種に関心を持つよう促す。接種率の増加に伴い、集団接種は山陰両県の多くの自治体で年内をめどに終了する予定で、きめ細かい情報発信が求められる。

 

 山陰両県ともに第6波に備え、医療の逼迫(ひっぱく)を避けるため体制強化に取り組む。<下>では山陰両県の具体的な第6波対策と中核病院の対応について紹介する。