北海道から東北地方の太平洋沖で、大きな被害を引き起こす巨大地震が発生する可能性がある。津波が来てもすぐに逃げられるように、避難タワーを整備するなど早期避難ができる体制づくりが急務だ。
政府が昨年末、北東北沖の日本海溝と、北海道沖にある千島海溝沿いで、マグニチュード9級の巨大地震が起きた際の被害想定を公表した。
日本海溝地震の最悪の場合には、北海道や青森など7道県で19万9千人が死亡すると想定した。ほとんどが津波によるものだが、避難を徹底すれば8割は減らせるとしており、対策を急がなければならない。
2011年の東日本大震災では、災害関連死を含めた死者・行方不明者数は2万2千人を超えた。この10倍近い被害となるのは「冬・深夜」に地震が起きると想定したケースだ。
多くの人が自宅で就寝していて、避難準備に時間がかかり、積雪や凍結によって避難するスピードが遅くなる。さらに低体温症になる人も考慮する必要があるためだ。これほど最悪の状態を想定して備えを充実させれば、被害は大きく軽減できるはずである。
また、建物は22万棟が全壊し、建物やインフラの被害や経済への影響は全国で31兆3千億円に及ぶと推計している。
これらの被害想定を踏まえて与党は、日本海溝・千島海溝で発生する地震の被害を受ける地域を対象に、地震、津波対策を強化する特別措置法改正案を通常国会に提出する方針を決めた。
今後、国が財政的に自治体を支援することで、海岸の堤防や避難タワーの整備、避難ビルの指定などを計画的に実施することを期待したい。
同時に自治体は、地震があればすぐに逃げるよう住民の避難意識を高めることや、高齢者ら一人で逃げられない災害弱者の避難を進める計画づくりに取り組んでほしい。幼稚園や小中学校、病院などの施設で津波を想定した避難訓練をすることも重要だ。
長期的な視点では、まちづくりを見直さなければならない。南海トラフ巨大地震で津波が想定される地域では、学校など公共施設、病院、老人ホームなどを建て替え時期に合わせて、津波が来ない高台などに移転させる例が目立つ。こういったことも見習いたい。
今回の日本海溝・千島海溝地震の被害想定によって東日本大震災を受けた「国難級」とされる大地震の被害想定が出そろった。南海トラフ巨大地震、首都直下地震にも共通するが、避難の徹底や耐震化などで被害を大幅に軽減できることを忘れてはならない。
例えば、南海トラフ巨大地震では、14年時点で想定された死者数が、18年度には27%減の24万2千人になるとの再計算結果が出ている。目標の8割減にはまだ届かないが、津波からの避難意識の向上や避難タワーの整備、住宅の建て替え・耐震改修によって被害を減らせる証しと言える。引き続き、対策強化に努めてほしい。
一方、人口減少、高齢化によって新たな課題も浮上している。被災者を隣近所で助け合う「共助」の力が急速に落ちていることだ。災害弱者の避難をどう確実に進めるかも課題だ。コミュニティーの防災力を維持、強化する方策も考えなければならない。