安来市の山あいで輝く幻想的なイルミネーション=安来市伯太町横屋
安来市の山あいで輝く幻想的なイルミネーション=安来市伯太町横屋

 安来市の山あいに幻想的なイルミネーションが今冬も出現した。赤や黄色、緑など多彩な電飾で動物やアニメのキャラクターが再現され、近隣の住民を楽しませている。イルミネーションは個人が趣味で10年以上続けているとのこと。なぜ続けているのか、本人を訪ねた。 (Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 イルミネーションは安来市役所伯太庁舎(安来市伯太町東母里)から県道9号を南に6キロほどの伯太町横屋の田んぼに設置されている。周辺には街灯が少ないため、暗闇の中で赤、青、黄色に輝くイルミネーションの美しさが際立つ。

 田んぼ(縦10メートル、横幅36メートル)のあぜ道沿いに高さ5メートルの足場が組まれ、ロープ状の照明で、人気アニメに登場するキャラクターや動物を形作っている。「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」の主人公・竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)の作品は、髪と履物の部分を赤色、服の部分を緑色、他の部分は黄色と、3色を使い分けて忠実に表現した。色合いは照明に色付きのテープを巻くことで調節するなど工夫されている。

「鬼滅の刃」の人気キャラクター。色を使い分けながら忠実に再現した

 今シーズンの作品で最も大きいものは高さ4・5メートル、横幅9メートルのクジラ。見た人が海中をイメージするよう青色の照明を使い、まるで本当にクジラが海を優雅に泳いでいるかのようだ。このほか人気アニメ作品「となりのトトロ」に登場するキャラクターのほか、ペンギンやトナカイといった動物を形作ったものが計15体並ぶ。田んぼ内にはビニールハウスの骨組みに照明を巻き付けて作った、光のトンネルもある。

田んぼにあるビニールハウスの骨組みをイルミネーションに活用するという、種平さんの独創性が光る

 山あいに浮かび上がる幻想的な世界に、通り過ぎる車も思わず速度を落とす。いずれもたいへん手が込んでいて、とても個人が趣味で作るものには見えない。

 ▼「どうせなら個性的なものに」
 イルミネーションは近くに住む、総合建設業の社長を務める種平英寿さん(69)が取り組む。15年ほど前、地域でイルミネーションがはやった時期があり「うちでもやってみようか」と、興味本位で自宅の玄関や庭で電飾を付けたのが始まりだという。

イルミネーションを長年製作する種平英寿さん

 最初は豆電球を庭の木に巻き付ける程度だったが「田舎の家をただ明るくするだけじゃ誰も見ない。どうせなら周りよりも目立つような個性的なものにしたい」と思い立った。子どもに人気のキャラクターのイルミネーションを作るため、キャラクターの絵を見ながら、ワイヤーメッシュと呼ばれる格子状の柵に照明を引っかけて形作った。作り方は近所のイルミネーションを参考にし、ほぼ独学で今の形になった。

種平さんがイルミネーションを始めて間もない頃、自宅前で作った作品。既に素人レベルではない気がする(種平さん提供)

 キャラクター1体を作るのに早くて3時間、複雑なものは丸一日かかるという。「準備を終え、暗闇で点灯してみるまでどんな作品になるのか分からない。点灯して、自分がイメージした通りのものができた時が一番うれしい」と魅力を語る。

 イルミネーションの質にこだわるようになって作品の数は増え、設置する場所は庭から家の前、最終的には自身の田んぼにまで広がった。点灯は毎年11月から翌年1月半ばまで、毎日午後4時半から同10時ごろまで。点灯を始めると、車を止めて撮影する人の姿を見掛けるようになるほか、週末の夜は、見物しに来た子どもの歓声が聞こえるそうだ。

 種平さんは「いろいろな人に喜んでもらってうれしい限り。作るのが楽しい上に、近所の人からも毎年『今年はやらないのですか』と言われるのでもうやめられない」と笑う。

 ▼孫との取り組み途切れさせず
 種平さんがイルミネーションの活動を続ける上で大きかったのは、作業を手伝ってくれる孫の遥斗さん(19)の存在。遥斗さんは小学生の時、種平さんのイルミネーションに興味を持ち、製作に加わるようになった。中学生になってからは、ほぼ遥斗さんの主導でイルミネーションを作り、凝った作品を数多く作ったという。

種平遥斗さんが製作した2019年のイルミネーション。完全に世界観が確立した作品だ。遥斗さんはこれまで30体以上を作ったという(種平遥斗さん提供)

 遥斗さんは2021年、大阪府の専門学校に進学した。進学直前の20年の冬には集大成として、普段の田んぼと、県道を挟んだ向かいの田んぼも使った過去最大規模のイルミネーションを展開し、盛況だったという。

 遥斗さんの進学で、イルミネーションはいったん終了にする予定だったが、種平さんは「孫と続けてきた活動を途切れさせたくない」と思い、21年11月、再びイルミネーションを設営した。

 遥斗さんのためとする一方で「孫に負けたくない」という負けず嫌いな面もある。今回は光のトンネルをキャラが通過するように見せようと、工夫を凝らしている。昨年末に里帰りした遥斗さんに見せたが「もっと(作品の)位置を考えた方が良い」「作品を詰め込みすぎ」と駄目出しをされたという。種平さんは「今年はどんなイルミネーションにするか、孫を驚かすには今から構想を練らなければいけない」と、既に来シーズンの構想に意欲を燃やす。

孫の遥斗さんと再びイルミネーションを設営できる日を心待ちにする種平さん

 ▼壮大なイルミネーション、気になる費用は?
 大規模なイルミネーションを続ける上で気になるのは費用。イルミネーションに取り組む民家はたびたび見掛けるが、どれほどの電気代が掛かるだろうか。種平さんのように大量のイルミネーションを2カ月、毎日つけるとなると、すさまじい費用が掛かるのではないか。

 種平さんによると、照明はほぼ全て発光ダイオード(LED)を使うため電気代は意外に安く、毎年、2カ月で3万円に届かないほどだという。イルミネーション本体は照明の数が多いため、用意に5万円ほど掛かったが、一度購入すれば故障するまで数年間使用できる。

 種平さんは「ここまで大規模じゃなければ、材料費と電気代を合わせて2カ月1万円程度で楽しめる。皆さんが思うほどハードルが高い趣味ではない」とする。イルミネーションはお金持ちがするというイメージがあったが、興味があればすぐにでも始められるようだ。
 

 山あいの県道を車で走っていると突如現れる壮大なイルミネーション。近くの住民が離れた孫との思い出と絆をつなぐ希望の光だった。種平さんの今シーズンのイルミネーションは1月30日まで、午後4時半~同10時半ごろに点灯する。