江戸時代から伝わることわざに「風が吹けば桶(おけ)屋が儲(もう)かる」がある。何の関係もないようなところから、意外なところに影響が出ることのたとえだ▼風が吹くと土埃(つちぼこり)がたって目に入り盲人が増える。盲人は三味線で生計を立てようとするから、三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える。猫が減るとねずみが増え、ねずみが桶をかじるから桶屋が儲かって喜ぶという理屈▼江戸時代に書かれた十返舎一九の『東海道中膝栗毛』には、そんな理屈を実践した男が登場する。桶を箱に置き換え、箱を仕入れたものの一つも売れず、世の中は思うようにならないと悟ったという話。男に追い風は吹かなかったようだ▼さて、こちらの風はどんな影響を与えるだろう。ロシアのプーチン大統領がウクライナの親ロシア派支配地域の独立を承認。これを受け、バイデン米大統領が「甚大な国際法違反で、断固たる対応が必要だ」と強く非難した。平和的な解決を望みたいが、米ロ外相会談も中止が決まり、先行きは見通せない▼心配なのが日本への影響。日米欧の主要国はロシアに対する経済制裁発動で歩調をそろえた。ロシア側の報復措置として警戒されるのが原油供給。滞ると原油の需給が国際的に逼迫(ひっぱく)して価格が高騰し、国内の企業収益や家計を圧迫することも予想される。対岸の火事ではない。ウクライナに吹く風の音に、しっかりと耳を澄まさねばならない。(健)