亀山永子さんが手がけた切り絵の絵本「きせきのやしのみ」(右)と「よこいしょういちさん」
亀山永子さんが手がけた切り絵の絵本「きせきのやしのみ」(右)と「よこいしょういちさん」

 31年もかけて戦地から故郷へ帰ってきた奇跡の椰子(やし)の実のように、この絵本が31人の方の手を介していつかわたしのもとへ帰ってくることを楽しみにしております-。愛知県の亀山永子さん(52)が、こっそり始めた取り組みだ。

 太平洋戦争末期に戦死した出雲市の男性がフィリピンから流したヤシの実が31年後に故郷の漁港に漂着し、家族の元に渡った実話を基に、切り絵の絵本『きせきのやしのみ』を作成。書店で販売していないため関心のある人に読んでもらえたらと、愛知で今春あった戦没者慰霊祭に参列した際、表紙裏に冒頭の文章と読んだ日や名前、感想を書く31人分の欄を設けて持ち帰ってもらった。

 絵本作成は靖国神社の遊就館に寄贈され、展示してあるヤシの実に強く引かれたのがきっかけ。父親の出身地である島根で起きた奇跡を通じて、家族を残して亡くなり遺骨も帰国できない多くの人がいることを、子どもたちにも伝えようと取材を重ね、4年前に完成させた。

 独学という切り絵は、精緻な美しさの中に登場する男性たちの思いが移ったような凄(すご)みがあり、心を打つ。これまでにも『よこいしょういちさん』など戦争に関する絵本を手がけた亀山さんは、8日早朝のNHK「ラジオ深夜便」で平和への思いを話す。

 『きせきの~』は知人を介して計50冊が全国を回っているという。島根にも届いており、縁のある人につながるはずだ。(衣)