実家で電話取材をし終えて受話器を置くと、何やら言いたげに母が近寄ってきて、辞書を渡された。言葉遣いが気になったという。何度も使った「なるほど」という言葉が。辞書を引くと、「相手の言うことに相づちを打つ時に使う」などという用法に続いて、こうあった。「立場の上の人には用いない」▼何年か前の出来事だが、意識してみると、日常生活でもテレビでも頻繁に使われており、自分でも恐る恐る使ってみて、それほど不快感は与えていないように思われた。言葉は時代とともに変化するもの、という勝手な分析を加えながら▼置き換えられる言葉はないか、と探りもした。「そうですね」では、いまひとつ聞かせてもらったことが共有できた気がしないし、「確かに」でも足りない。これというものが見つけられず、乱発しないようにして使い続けている▼この春、一度だけ確信を持って使った。新入社員の記者研修。デジタル社会を迎え、どうして地方紙を選んだのかを尋ねると、歴史の記録性や地域で積み重ねてきた信頼など、しっかりした答えが返ってきた▼変革の時代、新聞社に限らずどの分野でも、それぞれの土台の上に一緒になって新しい何かを積み上げていけばいいのだろう。入社から1カ月を迎える新しい力。立場の上も下もなく、互いが「なるほど」と、うなればうなるほど、活気ある仕事ができると期待している。(吉)