的をめがけて放水する出場者
的をめがけて放水する出場者

 消防団の操法大会は必要ない-。4月中旬、島根県内の元消防団員から山陰中央新報社にメールが届いた。全国的に歯止めがかからない団員減少という課題を踏まえ、報酬引き上げなどの処遇改善の動きがある中、なぜこうした声が上がるのか。聞けば、消防団離れの一番の原因が操法大会だという。 (報道部・古瀬弘治)

 メールの差出人は出雲市に住む元団員の50代男性。新型コロナウイルス禍で中止となる前まで、毎年あった市町村大会と県大会、隔年であった全国大会のため、かつて所属していた消防団では大会前、週4日の練習があり、さらに本番が近づくと練習は毎日、最低2時間になったという。

 持ち運び可能なポンプ、小型ポンプ車などの消防設備の使用法を学び、火災などに備えるのが動機づけの一つ。消防庁ホームページは「迅速、確実かつ安全に行動するために、定められた消防用機械器具の取扱い及び操作の基本について、その技術を競う」と目的をうたう。

 だが、男性はこう強調する。「スピードや美しさが求められる大会で、整列し、指を伸ばすなどの技術が(火災現場で)生かされた場面はほとんどない」。疑問を持ちながら参加してきたが、厳しい練習への報酬はない上、毎年のようにけが人が出ていたという。

 消防団で活動経験がある40代男性は「設備を使えるようになるのは設備担当になった、特定の人だけ。勝つための練習と言わざるを得ない」と指摘。現役の40代団員も「個々が消防ホースの使い方を学ぶ方が有意義だ」とし、活動内容の見直しを求める。

 操法大会の「不要論」は全国で広まり、うねりとなった。

 有識者らでつくる総務省の「消防団員の処遇等に関する検討会」は昨年8月、消防団の現場アンケートなどを基にまとめた最終報告書で「操法大会を前提とした訓練が大きな負担で、幅広い住民の消防団への参加の阻害要因となっている」と批判した。

 金子恭之総務相は4月28日の記者会見で、操法大会が、より災害現場で役立つ実践的な競技内容となるように改善する考えを表明。「団員の動作を過度にそろえるなど、パフォーマンス的な要素は審査対象外にする」と述べた。

 日本消防協会は2022年度から対応。島根県消防協会もこれにならう方針で、同協会の松浦嘉昭会長も「大会はこれまで重要な役割を果たしてきたが、時代とともに変化が求められている。自助努力の中で、より実践的な操法に変える」と受け止める。

 一連の取材を通じて県内の消防団員や関係者から聞かれたのは「地域を守るための消防団」という、変わらない使命感。一方で、消火活動のほか、頻発する災害への対応など、消防団の役割は変わりつつあり、使命感にすがるだけでは地域を守り続けることができなくなるだろう。

 現場の声が起こした変化のうねりは、放水動作の速さや正確さを競う操法大会の内容見直しという目先の論点だけで終わらせず、持続可能で、地域の声や実情に応じた役割を果たす消防団の実現につなげるべきではないか。