第26回参院選の鳥取・島根合区選挙区(改選数1)は、自民党現職の青木一彦氏の勝利で幕を閉じた。5候補による戦いは、3度目を迎えた合区選挙では最多になったが、盛り上がりを欠き投票率は低調だった。理由はエリアが広がり候補の顔が見えにくくなったことばかりではない。地元選出国会議員への失望感が根底にあるのではないか。
思えば、昨年秋まで自民党には七つの派閥があり、そのうち三つで山陰両県選出の衆院議員が領袖(りょうしゅう)を務めていた。その力に期待が集まったのが、山陰への新幹線誘致だった。
絵空事ではない。全国新幹線鉄道整備法に基づき、建設すべき路線として二つの新幹線が、1973年に国の基本計画に盛り込まれた。大阪から山陰両県を経由して山口県下関市を結ぶ「山陰新幹線」と、現在のJR伯備線をルートとする「中国横断新幹線」(岡山|松江)。ただ同年に起きたオイルショックを引き金に計画は凍結された。
風向きが変わったのが2015年。北陸新幹線開業による沿線の盛況ぶりを受け、山陰両県の経済界を中心に新幹線待望論が再燃。18年2月には松江市内で山陰新幹線の早期実現を求める決起大会が開かれ、派閥領袖ら、顔をそろえた地元選出国会議員の力に期待が寄せられた。
あれから4年以上たつが、建設の前段となる整備計画路線への格上げさえ見通せず、事態は何も変わっていない。これでは国会議員への期待が失望へ変わっても仕方ないだろう。
自民党は参院選の公約に、岸田文雄首相(自民党総裁)の思い入れが強い「デジタル田園都市国家構想」を掲げ「”全国どこでも便利な生活”を実現」と訴えた。新型コロナウイルス禍でテレワークが普及し始め、都会地からの移住が増えてきた中、地方創生の追い風に思える。
一方で、政府は医療費抑制のため、地域ごとの病院の再編・統合を視野に不要な病床を減らす「地域医療構想」を推進。また、沿線の人口減に加え、コロナ禍で乗客が激減したローカル鉄道も存続の危機に直面している。暮らしを支える地域医療や公共交通が不便になれば、移住の動きも鈍ってしまう。
中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の再稼働を巡っては、公示前に地元自治体が同意したため、参院選の争点にならなかった。だが、排出される高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場問題は進展せず、滞留への懸念も強い。
こうした住民の不安を解消するのも、地元選出国会議員の役割のはすだ。それができなければ、有権者の失望はやがて絶望へと変わってしまう。
8日には街頭演説中の安倍晋三元首相が銃撃に倒れ、亡くなった。思わぬ恨みを買うこともあるだろう。それだけ政治家は重責を担っているという覚悟を持って、働いてほしい。