参院選の投票率は、過去4番目に低い52・05%(選挙区)にとどまった。前回3年前より3ポイント余り持ち直しとはいえ、「2分の1民主主義」が定着した形だ。有権者の反応が鈍く、盛り上がりを欠いた〝微熱選挙〟を表している。

 今回の選挙は、物価高騰対策や、再び感染拡大してきた新型コロナウイルス対応という私たちの暮らしと命に密接にかかわる問題が争点となった。憲法改正や防衛費の大幅増額など国のありようを左右するテーマも問われた。そして投票日直前に遊説中の安倍晋三元首相が凶弾で命を落とす悲惨な事件が起き、民主主義の「強度」が試されたはずだ。

 にもかかわらず、半数が意思表示をしない事態は、民主主義の危機と呼んでいい。有権者に自覚を促すのはもちろんだが、政府も、与野党も深刻に受け止め、抜本的な対策を検討しなければならない。

 最近の国政選挙の投票率は、旧民主党が政権交代を果たした2009年の衆院選で69・28%を記録したが、その後は50%台が続き、3年前の参院選はついに50%を割り込んだ。国政だけでなく、市町村長選など地方選挙でも過去最低を更新するケースが相次ぐ。強固な支持組織を持つ政党が有利になるのは当然だ。

 とりわけ、若い世代の無関心ぶりが際立つ。今回18歳、19歳の投票率は抽出調査で34・49%で、3年前の参院選も10代、20代の投票率は30%台前半。昨年秋の衆院選も40%前後と、他の年代に比べ圧倒的に低い。

 なぜ、投票所に足を運ばないのか。1票を投じても、選挙結果に影響はなく、政治は変わらないと思い込んでいるとすれば危うい。有権者の半数しか関与していない選挙で選ばれた議員が国の針路を決めていくのは、民主国家の正常な姿ではないだろう。

 人口減少や少子高齢化の加速、私たちの生活を脅かす気候変動問題、持続可能な社会保障制度、積み上がった国の借金…。これから社会の中核となっていく人たちにとって、目を向けなければならない切実な課題が横たわっていながら、「自分事」として捉えていないからではないか。若年層の人口は、中高年層よりも少ないだけに、このまま放置すれば、若者の声が政治の場に届かず、自分の将来を、親の世代以上に白紙委任することになりかねない重大さを認識してほしい。

 政党の責任も重い。選挙戦に入っていくら公約を競い合っても、短期間で浸透させるのは厳しいのが現実だ。与野党とも若者向けの政策にも力を入れているというが、メッセージとして心に響いているとは言い難い。

 まず必要なのは、形骸化した日頃の国会論議の活性化だ。政府、与党の法案や予算案と、野党の対案を並べて審議すれば言論の府は間違いなく変わる。野党は投票率が高くなる傾向が明らかな接戦の構図を各地でつくる努力を尽くす。繁華街などで若者が身近に投票できるよう、投票場所の多様化を一段と進めることや、投票時間短縮の見直しにも積極的に取り組むべきだ。

 著名な政治学者の丸山真男が説いたように、私たちは、民主主義「である」ことに満足するのではなく、一人一人が行動「する」ことから始まる。それが1票である。あらためてかみしめたい。