原子力規制委員会は22日の会合で、東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の処理水海洋放出計画の安全性に問題はないとして計画を認可した。東電は地元自治体の同意を得た上で放出設備の本格工事を始める方針で、来年春ごろの放出開始を目指している。
だが、認可は海洋放出の安全性に関する評価に過ぎず、放出に反対する漁業者の同意を得るための有力材料となるとは思えない。これを金科玉条として事態を強引に進めることも許されない。
原発事故以来の東電の対応が、被災地と真摯(しんし)に向き合い、信頼回復に大きな努力を傾けてきたとはいえず、放出に関する漁業者らの反対が根強いのは当然だ。
東電は「海洋放出ありき」の姿勢を改め、汚染企業としての当事者意識と責任を持って、被災者の信頼回復に全力を尽くすことから始めるべきだ。
第1原発では炉内冷却のための注水や建屋に流れ込む地下水、雨水によって大量の汚染水が発生している。これを特殊な装置で浄化したものを「処理水」というが、トリチウムなど取り切れない放射性物質が含まれる汚染物質であることに変わりはない。
現在は敷地内のタンクに保管しているが、「タンクが増えて敷地が足りなくなる」などとして、政府が海洋に放出する方針を決めた。
東電の計画ではトリチウム濃度が国の基準の40分の1未満となるよう大量の海水で薄め、新設する海底トンネルを通して沖合約1キロで放出する。規制委はポンプなどの性能や異常時の放出停止の方法、地震や津波への対策などを評価し、認可した。
だが、海洋放出に関してより重要なのは、これらの科学的、工学的な評価ではなく、社会的な合意という問題だ。
東電は「地元の合意なしには放出はしない」としているし、立地自治体と結んでいる協定では、放射性物質の影響が及ぶ可能性がある施設を新増設する場合、地元の事前了解を得る必要がある。
だが、東電はどのような形なら地元合意が得られたと考えるのかを明確にしていない。漁業者など放出に懸念を示す人々との対話や情報公開も十分とはいえない。
長期的な裁判を避けるための裁判外紛争解決手続き(ADR)の結論を次々と拒否し、結果的に各地で訴訟が起こされている姿を前に、誰が放出による風評被害の賠償に東電が真剣に臨むと思うだろうか。本格工事に入る前に、東電が予備的な工事を既に始めていることに不信感を示す被災者もいる。
国が風評被害対策などで海洋放出計画を支援することにも問題がある。
汚染企業が、自らが引き起こした事態に全責任を負うという「汚染者負担の原則」がないがしろにされるからだ。この結果、東電の当事者意識が薄れることにもつながりかねない。
東電の失態で生じた問題の解決になぜ多額の税金を投入するのか、国は納税者に説明を尽くす必要がある。
安全性へのお墨付きが得られても、残された課題は山積している。従来の姿勢を根本から改め、被災者と誠実に話し合うこと。スケジュールありきではなく、放出に反対する人々との信頼関係の構築に一から取り組むこと。それこそが先決だ。