過去に「霊感商法」が社会問題化し、最近も信者の被害相談が相次いでいた。そんな宗教団体がなぜ政界に食い込めたのか、政治家に警戒心はなかったのか、政策決定などに影響はあったのか、解明すべき問題は数多い。経緯や実態の徹底的な調査を進め、明らかにした上で関係を断ち、被害者の救済を講じることが政治の責任だ。
社会を震撼(しんかん)させた安倍晋三元首相の銃撃事件は、容疑者の動機や背景が明らかになりつつある。母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に巨額の寄付をしたことで一家が崩壊、教団の友好団体の集会にビデオメッセージを寄せた安倍氏に敵意を抱き、凶弾を向けたとされる。
もちろん、理由は何であれ、暴力によって恨みを晴らす行為は絶対に許してはならない。一方で教団の活動に「行政も政治家も手を打ってこなかった」(全国霊感商法対策弁護士連絡会)という批判から、目を背けるわけにはいかないはずだ。
旧統一教会は友好、関連団体も含め、与野党、中央、地方を問わず幅広く政界に手を伸ばしており、とりわけ自民党との関係は深い。
安倍氏の実弟の岸信夫防衛相は教団所属の人物に選挙の手伝いを受けたと説明。二之湯智国家公安委員長は、教団の関連団体が2018年に開催したイベントで京都府実行委員会の委員長を務め、あいさつをしたと明らかにしている。末松信介文部科学相は教団関係者のパーティー券購入を認めた。岸田内閣の3閣僚にとどまらず、自民党議員との関わりは次々と判明している。
さまざまな友好、関連団体のイベントに、政権与党の議員が参加したり祝辞を寄せたりすれば、社会的な信用力を得られると、旧統一教会が考えていたのは想像に難くない。議員側も票欲しさに安易に教団の要請に応じていたのではないか。
野党では、立憲民主党や日本維新の会が所属議員を対象に教団との関係の有無について実態調査に乗り出した。ところが、自民党は「党としては一切関係がない。各議員には厳正、慎重な対応をするよう注意を促していく」(茂木敏充幹事長)と、内部調査に消極的な姿勢を崩していない。
こうした中で野党が着目するのは、旧統一教会の名称変更だ。「霊感商法」に象徴される負のイメージを、名前を変えることで払拭しようとする狙いがあったのだろう。1990年代から要望しながら、認められなかったのが、2015年、安倍政権の下村博文文科相時代に受理された。どんな理由で容認に転じたのか、疑問は残る。下村氏は「全く関わっていない」と関与を否定するが、事実関係を詳細に説明する必要がある。
もう一つ見逃せないのは、自民党保守派議員との政治理念の類似性だ。統一教会系の政治団体「国際勝共連合」は運動方針に(1)憲法改正の実現(2)防衛力強化(3)同性婚合法化や行き過ぎたLGBT人権運動の歯止め―を掲げている。自民党の政策に反映させようとしたのか、検証が不可欠だ。
旧統一教会を巡るトラブルは後を絶たず、苦悩する「宗教2世」の問題も含め、救済に取り組まなければならない。その前提が政界における教団の実態解明だ。国会に調査機関をつくることも検討に値する。自民党はじめ政治の自浄能力が問われている。





 
  






