子ども政策に総合的に対応する「こども家庭庁」が2023年4月、発足する。虐待やいじめ、貧困問題など子どもを取り巻く状況が困難さを増す中、各省庁に分かれている業務を集約し、子ども政策に関する首相直属の「司令塔」にする狙いだ。先の通常国会で設置関連法が成立した。
同庁は職員300人を超す規模となる予定で、厚生労働省と内閣府の関連部署を移す。政府内で子ども政策の総合調整機能を果たす組織の必要性は以前から指摘されており、一歩前進と言える。一線の現場実務を担う地方自治体の意見に耳を傾け、NPOなど民間団体との連携強化にも意を尽くしてほしい。
こども家庭庁には、何よりも少子化克服に力を入れてもらいたい。厚労省の人口動態統計(概数)では、21年の日本人の出生数は約81万人と統計開始以降で最少を更新した。子どもを産み育てやすい環境の整備が急務なのは言うまでもない。
必要なのは財源だ。国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、日本の子育て政策を含む家族関係社会支出は9兆円台と、国内総生産(GDP)比で1・73%に過ぎない。少子化対策の先進国とされるスウェーデンやフランスの2~3%台に比べ見劣りする。
国会審議で岸田文雄首相は子どもに関する政策予算について「将来的に倍増を目指していきたい」と述べたものの、財源や時期は示さなかった。首相は「来年の骨太方針(経済財政運営の指針)に倍増への道筋を示す」と言うが、少子化が加速する現状を考えると悠長に過ぎないか。早急に安定財源の確保策を議論し、予算拡充への詳細な工程表を明示するべきだ。
また、こども家庭庁の発足で縦割り行政の弊害が本当に解消できるのかには疑問が残る。保育所の所管はこども家庭庁に移るが、幼稚園の所管は文部科学省のままだ。幼児教育と保育の「幼保一元化」は長年の懸案だが、見送られてしまった。
省庁間で責任の所在があいまいになるような事態は避けたい。関連法には、そうした縦割りを排除する切り札として、こども家庭庁の担当閣僚に与えられる「勧告権」が明記された。他省庁への是正勧告や首相への意見具申ができるという。
ただ、勧告権に強制力はない。どこまで機能するのかは未知数だ。実効性を持たせるような運用の在り方が課題となる。
関連法と同時に、与党が議員立法でまとめた「こども基本法」も成立した。日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准したが、同条約の理念を体現する法整備が遅れていた。子どもを権利の主体と位置づけた包括的な基本法ができたことは評価したい。
ただ、子どもの権利が実際に守られているかどうかを行政から独立した立場で調査・勧告する第三者機関の設置が、基本法に盛り込まれなかったのは残念だ。「子どもコミッショナー」などと呼ばれ、海外では70カ国以上が同様の制度を導入しているという。
子どもが自ら権利侵害や不利益な扱いを訴えるのは難しい。コミッショナーは選挙権を持たない子どもの声を代弁する役割を持つ。制度導入に向け再検討を求めたい。子どもがのびのびと健やかに成長できる社会を実現するためにも、子どもの意見を尊重する仕組みづくりが大切だ。