盆の帰省で萩・石見空港に降り立った羽田便の乗客(2019年撮影)
盆の帰省で萩・石見空港に降り立った羽田便の乗客(2019年撮影)

 新型コロナウイルス感染者の拡大「第7波」の中、感染確認後では初めて移動制限がないお盆休みを迎える。山陰の現在の感染状況と帰省する人、迎える人が注意する点について両県担当者や医療従事者に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 6月下旬に始まった感染「第7波」ではオミクロン株の一種で、従来よりも感染力が強いとされる「BA・4」「BA・5」が猛威を振るう。特に8月に入ってから、一日の新規感染者数は全国で計20万人を超す日が多く、ほとんどの都道府県で過去最多を更新している。

 

 ▼月合計の感染者は過去最多の5倍に

 

 島根県では1月以降、月の感染者数は4月の4358人が最多だった。7月に入ると、20日(発表日)には一日の感染者数が過去最多の1609人となり、その後も千人を超える日が続いた。7月の感染者数は4月の5倍以上にもなる2万3195人。島根県では第7波の到来が早く、感染が拡大し続けている。

 第7波の特徴について、島根県感染症対策室の田原研司室長は「高齢者福祉施設に入る高齢者と、学校や保育園といった18歳以下の感染者が多い」とした。県によると、7月11日~8月4日に起きたクラスター(集団感染)123件のうち、学校や児童福祉施設関連が55件で、高齢者福祉施設が46件を占める。8月3日時点で、1週間の感染者数(人口10万人あたり)は18歳以下が1606・6人で年代別で最多、65歳以上は294・8人になっている。

 田原室長は「人の接触が多い場所の中でも、特にマスクといった感染対策が取りにくい場所でクラスターが増えている」と分析した。高齢者福祉施設の患者や園児、部活動中の生徒は常にマスクを着けることが難しく、感染の危険性が高まっていることが原因という。

 

 ▼若年層の感染増

 

 鳥取県の6月までの月の感染者数の最多は2月の3121人。6月には1416人まで抑えられていたが、7月から感染者が増加し始め、7月の合計は1万2063人。過去最多だった2月の4倍近くになった。8月10日(発表日)には一日の感染者数としては過去最多の1008人が確認された。

 鳥取県の新型コロナウイルス感染症対策本部事務局によると、高齢者福祉施設や医療機関でのクラスターに加え、児童生徒が夏休みに入ったことから、放課後児童クラブや部活動での感染が目立つという。7月4~31日に起きたクラスター90件のうち、学校や保育所、学童関連が46件。県が1週間ごとにとる統計でも、同じ期間で10代以下の感染が全体の30~37%を占めている。

 4日に鳥取県庁であった対策本部会議で平井伸治知事は「感染状況がこれまで一進一退だったものから二退、三退と押され始め、非常に懸念している」と危機感をあらわにした。両県ともに第7波が猛威をふるっている。

 

 ▼会食や施設での感染、改めて指針示す

 移動制限がない盆休みを迎えるに当たり、両県は引き続き、基本的な感染対策の徹底を呼びかける。

 島根県は昨年夏の第5波での傾向から、帰省者との会食が感染拡大要因になり得るとする。9日付で、隠岐を含む県内全域で飲食店利用人数を4人までとする要請を出した。利用時間についても新型コロナ対策認証店は3時間以内、それ以外の店は2時間以内までとするよう併せて求めた。

 移動制限はないが、65歳以上の高齢者や基礎疾患を持つ人は、医療状況のひっ迫が懸念される東京都、神奈川県、沖縄県といった10都県(8月10日時点)への帰省や移動について慎重に判断するよう呼びかけている。

島根県内の新型コロナウイルスの感染状況について話す田原研司室長(資料)

 田原室長は「家庭でもマスクを着けっぱなしにするのは難しい。家に帰省者がいる際は換気を増やすことで対策をしてもらい、少しでも異常があれば受診するなど小まめに注意してもらいたい」と話した。

 4日の鳥取県対策本部会議では、今後の感染対策について確認。部活動では少しでも体調不良を感じたら活動に参加しないこと、更衣室でもマスク着用を徹底することを改めて呼びかけた。また、園児や児童は無症状が多いため、施設内に陽性者が複数いる前提で、感染防止の意識を一段階上げて対応するよう求めた。

 お盆期間中についても、宴席での密回避や換気の徹底、普段会わない友人との会食の前後に無料検査を活用することを勧めている。平井知事は「人との交流が増える時期だが、いま一度立ち止まってマスクや換気といった基本的な対策について考えていただきたい」と話した。

鳥取県の新型コロナウイルス感染症対策本部会議で、盆期間の感染対策を呼びかける平井伸治知事

 無料検査は無症状者を対象に、島根県はイオン薬局松江店(松江市東朝日町)や島根県立大浜田キャンパス(浜田市野原町)など46カ所、鳥取県はイオン薬局日吉津店(鳥取県日吉津村日吉津)や徳吉薬局市役所前(鳥取市幸町)など97カ所で、ともに8月31日まで受けることができる。検査場所は両県のホームページから見られる。

 

 ▼医療機関や保健所の態勢は

 お盆期間中の注意点について、島根県立中央病院、感染症科部長の中村嗣医師(59)は「これまでも同様だが、感染のリスクが高いのは帰省した人と一緒に食事をとる時」と強調した。感染の多くは飛まつ感染のため、マスクを外す食事の際は大声で話すことは控え、暑くても窓を二方向は開けて換気するよう呼びかけた。

家族との食事で全く話さないというのは難しい。なるべく大きな声で話さない、換気をするといった対策をとることが求められる

 帰省前の検査結果についても「過信しないように」と警鐘を鳴らした。ウイルスを持っていても発症前だと陰性が出る可能性があり、移動中に感染することもある。「陰性だったからといって感染対策の手を緩めないようにしてほしい」と求めた。

 感染者の増加に伴い、重症化や死亡する患者が増えた。島根県内では5日に軽症で自宅待機中だった、基礎疾患のある65歳以上の患者が死亡する例が出た。中村医師は「感染者の全体数は非常に多いが、重症者の割合は従来の株と比べると低い」としながら、高齢者や基礎疾患のある患者の重症化リスクは依然として高い点を指摘した。

 コロナ感染症状の危険性については「コロナで重症化しなくても、感染により体力が落ちて基礎疾患や別の病気が重症化したり、死亡したりするケースも考えられる。特にコロナの息苦しさは自分では分かりにくく、軽症だと思っていてもいつの間にか重症化することもある」と話した。

 治療方法も株によって変わる。従来、重症化リスクがある軽症者には、特定のウイルスの活動を抑える2種類の中和抗体を混ぜて使う「抗体カクテル療法」を採用し、効果を発揮していたが、オミクロン株には効き目が薄いとみられている。

 現在は、従来の株では中等症以上の患者に使っていた抗ウイルス薬を、軽症の段階から活用するという。株や症状によって対応が変わるため、中村医師は「過度におびえる必要はないが、まずは感染しないように対策を意識し続けてほしい」と感染防止の徹底を求めた。

松江市内の病棟で業務にあたる看護師。山陰両県の病院では看護師や職員の感染、濃厚接触により人員繰りが難しくなり、現場で悲鳴が上がっているところもある(提供写真)

 県内で感染者が増加したことで、病院の職員が濃厚接触による自宅待機になることが増え、以前よりも繁忙感が増しているといい、中村医師は「感染のピークは越えつつあるが、今後、新しい株が出現する可能性があり、落ち着くまでにはもう少し時間がかかるかもしれない」と見通しを話した。山陰両県の総合病院では、看護師など医療関係者本人や子どもが感染し、医療従事者が職場に出勤できないケースが増えている。ぎりぎりの人員で対応しているケースがほとんどで、複数人が出勤できないと、通常医療を含め病院機能が維持できなくなる。総合病院の勤務者は家族以外との接触禁止や花火大会やお祭りへの参加禁止、山陰両県以外への移動禁止など厳しいルールを設けて、病院機能を維持することに努めている。感染拡大は医療従事者にさらなる負担を強いることになり、医療全体のリスクになる。お盆休みでの感染拡大は食い止めなくてはならない。

 山陰両県は、感染者の対応窓口となる保健所業務の態勢強化や負担軽減を図る。島根県は県職員が検査結果の陽性告知といった保健所の業務を一部代行するほか、感染者数が多い一部地域では、クラスターが発生していない施設で濃厚接触者以外の接触者調査をせず、検査対象を絞った。鳥取県では県庁から保健所への応援職員を増員したほか、疫学調査の聞き取り業務の一部を外部委託し、保健所機能の維持を図っている。工夫しながら、感染拡大を食い止めようとしている。

 

 コロナ流行以来初となる、移動制限のない夏。久しぶりの旅行や帰省を計画している人も多いだろう。全国で感染者数は右肩上がりに増加しており、感染防止を忘れず、楽しい夏休みにしたい。