「本のある場所」を紹介する本紙「生活アップデート面」の連載企画『行ってみたい!』は、バスの待合所やJRの駅舎など、公共スペースに即席の本棚を設け、手に取ってほしい本を置いている人たちの土地への愛着が紹介されている▼都会地のように、バスや電車は頻繁には来ない。スマートフォンを見ながら待ち時間をつぶすことが多いこの頃だが、Wi-Fi(ワイファイ)がつながりにくいとお預けを食らったようでストレスがたまる▼外で食べる弁当が格別おいしいように、海岸や里山の景色を見ながら新たな本と出合う時間は楽しい。不便を改善する努力を否定するわけではないが、置かれた環境に自分を合わせる、地域の実情に合った暮らし方の一例と言えるだろう▼JR山陰線の田儀駅(出雲市)や折居駅(浜田市)で昼下がりから夕方にかけて本を持ち込んだら幸福なひとときが過ごせそうだ。作家の松本清張ゆかりの駅でおいしいそばが食べられ、待合室の椅子がどっしりとした木次線の亀嵩駅(奥出雲町)では歴史小説を手に取りたい。もちろん列車に乗るのも忘れずに▼山陰両県でも利用者が少ない路線の今後の在り方について地域で議論が活発化する。国土交通省の2020年の資料によると19年度時点での無人駅の割合は島根が75・3%、鳥取は70・7%。人が集まる拠点としての駅舎の活用についても、大いに取り上げたい。(万)