東京五輪・パランリンピック汚職事件が拡大の様相を見せている。東京地検特捜部は受託収賄容疑で大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者を再逮捕した。出版大手KADOKAWAが大会スポンサーになれるよう組織委側に働きかけ、見返りに知人経営のコンサルタント会社を介して計約7600万円を受け取った疑いが持たれている。

 併せて受託収賄容疑で知人を、贈賄容疑でKADOKAWA側2人を逮捕。また紳士服大手AOKIホールディングス前会長ら3人からスポンサー選定などで有利な取り計らいを頼まれ、計5100万円を受け取ったとして受託収賄罪で高橋元理事を、贈賄罪で前会長らを起訴した。

 さらに元理事は大阪市の広告会社大広からも賄賂を受領した疑いが強まり、特捜部は贈賄容疑で大広本社などを家宅捜索した。大広は組織委によるスポンサー集めの代理店業務に参入するために元理事を頼り、KADOKAWA側からの賄賂提供の受け皿となった知人の会社に多額の資金を送金したとされる。

 不透明な金銭の流れに捜査のメスが入り、五輪のイメージは大きく傷ついた。しかし、これで全てなのか。大会に合わせて7800億円もの公費を投入し、組織委に多数の職員を派遣した国と開催都市の東京都を中心にスポンサー選定の過程などを徹底検証し、国民に説明を尽くすべきだ。

 大会組織委員会は日本オリンピック委員会(JOC)と東京都によって設立され、職員は国や都庁、電通など民間企業からの出向者。ピーク時に約7千人に上り、大会の準備や運営を担った。

 特捜部の捜査で焦点となったスポンサー募集は、専任代理店の電通が組織委マーケティング局に候補企業や希望の契約額を提案。局長をはじめ電通からの出向者多数で選定作業を進め、理事会に結果を報告し了承を得る仕組みだったが、選定作業は「ブラックボックス」といわれ、具体的な中身は外部からはうかがい知れなかったという。

 電通で専務を務めた高橋元理事にとって、スポンサーになりたいというKADOKAWAやAOKIからの依頼をかなえるために働きかけをするのは、さほど難しくなかったとみられる。KADOKAWA側からの賄賂の送金先になった会社の代表で今回逮捕された知人も電通の出身で、元理事の後輩に当たる。

 現在は清算法人に移行した組織委が今年6月にまとめた最終報告によると、東京大会の経費は総額1兆4238億円。負担の内訳は組織委が6404億円、都が5965億円、国は1869億円となっており公費の割合が5割以上を占めている。にもかかわらず公益財団法人の組織委は国や自治体と異なり、情報公開制度の対象外だ。

 これだけの税金がつぎ込まれている以上、組織委は公的な性格を帯びており、事件を踏まえて国や都、清算法人などが連携し、スポンサー選定の過程はもちろん、契約内容やライセンス商品の販売などに至るまで調査・検証する必要がある。

 巨大な商業イベントと化した五輪は腐敗と癒着の温床となるリスクをはらむ。2030年冬季五輪の札幌招致に影響が及びかねないと嘆く前に、同じようなことが二度と起きないよう組織委のチェックや情報公開に力を注ぐことを考えたい。