日野自動車で中大型トラックに続き、小型トラックでもエンジンの性能試験で新たな不正が見つかった。外部の専門家による調査委員会の報告書がいったんまとまった直後だけに深刻だ。社内の点検ではなく、国土交通省の立ち入り検査で発覚しており、自浄能力の欠如は隠しようもない。

 三菱電機、日本製鋼所などの名門企業でも検査不正が見つかっている。デジタル転換やサービス化の波に洗われているとはいえ、ものづくりこそ、日本経済の強さの源泉だ。安全と安心を守る生産現場の規律を一刻も早く取り戻さねばならない。

 日野は今年3月、エンジンの燃費や排出ガスの試験データを改ざんしていたと発表し、不正があった車種の販売を停止した。エンジンの型式指定を取り消す行政処分も受けた。

 8月2日に調査委の報告書を公表したが、同22日には小型エンジンにも不正があったことを明らかにした。排ガス試験で国が定めた測定回数を満たしていなかったことが、国交省の立ち入り検査で発覚したという。

 この結果、小型トラック「日野デュトロ」など国内向け車種の大半の出荷を停止する事態に陥った。同社は「弁解の余地もない」と謝罪したが、業績への影響がどこまで広がるか、見通しすら立たず、取引先や株主も不安を募らせている。

 これまでの調査では、試験の手抜きやデータ改ざんは約20年前から続いており、2016年に排ガスや燃費の試験データを確認する調査を国交省が実施した際も、「不適切な事案はない」と虚偽報告を提出した。

 今回は中大型トラックでデータ改ざんなどが判明した後も、小型トラックでは不正が続いており、あきれてものが言えない。日野の出荷停止の影響は物流会社などにも広がっている。

 不正があった車種を対象に正しい試験をやり直し、安全性に問題がないか、確認するのが最優先だ。親会社であるトヨタ自動車も関与して徹底的に原因を究明し、不正を根絶しなければならない。

 1990年代末の金融危機やデフレ不況を、日本の産業界は猛烈なリストラで乗り切ってきた。生産現場にも非正規社員が大量に投入されるようになり、作業の効率化やコスト削減を迫られた。

 各社の調査報告書によると、メーカーの検査不正の多くは決められた納期を守り、生産コストを圧縮することが動機になっている。長期間引き継がれてきた不正も多い。監督する部門も現場に遠慮して見過ごしたり、作業の実情が分からず不正を見抜けなかったりするケースが目立つ。

 再発を防止するには、経営陣がデータ改ざんなどの不正の重大さを自覚し、性能試験や検査に必要な人員、予算、機材を認めるのが第一歩だ。安全や環境に関わるコストを軽視するようでは、企業の社会的責任を果たせない。国や業界団体も、技術革新や素材、設計の改良などを踏まえ、各種試験を見直す必要がある。

 多くの報告書には「上意下達」「風通しの悪さ」が決まり文句のように登場する。不正に気付き声を上げた社員を冷遇したり、内部通報を無視したりするのは論外だ。工場の自主性と創意工夫こそが日本企業の品質を支えてきた。生産現場の強さと規律を取り戻すため、官民で知恵を絞らねばならない。