アニメやゲームの世界から抜け出してきたような美少女キャラクターを、伝統的な「根付(ねつけ)」で表現する彫刻家、永島信也さん(35)=松江市出身=が、東京を拠点に活動を続けている。「頭の中にある美しい顔を表現する」とし、島根ゆかりの神話や妖怪とも組み合わせ、既成概念にとらわれない独特の造形世界を生み出している。
高さ約6センチで、手のひらにすっぽりと収まる根付に美少女の顔。東京都文京区のギャラリー花影抄で4月に開いた個展に出した新作「オロチノキグルミヒメ01」は、3頭身の女の子が出雲神話に登場する八岐大蛇(やまたのおろち)の着ぐるみをまとう姿を表現した。
木目が細かいツゲを材料に、電動の切削工具で繊細な表情や大蛇の肌の質感などを彫り込み、女の子の目には水晶を埋め込んだ。新作のうち7点は、キツネ、こま犬、龍などを美少女と組み合わせたシリーズ。「表現を模索してきた中、徐々にしっくりくるものが見つかりつつある」と確かな手応えをつかんだ。
根付は、江戸時代から着物の帯に印籠や巾着を挟むための留め具として使われ、島根県西部の「石見根付」は全国的にも有名だ。
永島さんの作品は、壊れづらい▽ひもを通す穴が開いている▽とがっていない―など、根付の要素を踏まえながら新たな表現に挑む現代根付と呼ばれ、彫刻で一番難しいといわれる顔の造形の巧みさが光る。
発想の源は、幼少期に夢中になったおもちゃのゴム人形、人気ゲーム「ポケットモンスター」、フィギュアなど。中学校から木彫りを始め、松江高専を卒業後、京都造形芸術大(当時)彫刻コースを専攻。根付は同大3年時から独学で取り組み、卒業後は各地で毎年個展を開いてきた。
頭の中にある「美少女の顔」を手作業で形にしていく面白さに夢中となり、創作に没頭する過程でたどり着いたもう一つのテーマは、身近で当たり前のように見聞きしてきた神話や妖怪。「他の人にない、島根で育った僕だからこそ持つ個性」だと感じる。「手にした人がずっと身近に持っていたくなるものを作り出したい」とし、さらに表現を研ぎ澄ませる。 (白築昂)