岸田文雄首相の臨時国会での所信表明演説を受けて各党の代表質問が始まった。「言論の府」での本格論戦は6月に閉会した通常国会以来になる。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員の不適切な関係、それ故、世論の分断を生んだ安倍晋三元首相の国葬実施。これらの問題が国民の政治不信を増幅させている中で、ようやく開かれた国会である。
岸田首相は初心に返って「厳しい声にも真摯(しんし)に、謙虚に、丁寧に向き合っていく」と演説で明言したが、最大の焦点といえる旧統一教会問題では従来の説明の範囲内にとどまった。そのような対応で国会質疑をやり過ごすのであれば、初心回帰の決意は言葉だけとのそしりを免れまい。
代表質問で立憲民主党の泉健太代表は、教団トップとの対面などが次々発覚している山際大志郎経済再生担当相の更迭を要求。併せて教団と接点を持ちながら自民党が非公表にした議員名を明らかにするよう迫った。
首相は山際氏について「自らの責任で説明を尽くす必要がある」と述べ、公表の在り方に関しては「自民党で検討を続けている」と答えた。閣僚や自民党任せでは、疑念解消に消極的だと受け止めざるを得ない。
立民の西村智奈美代表代行は、安倍政権下の2015年に認証された旧統一教会の名称変更の経緯を追及。首相は法令にのっとった判断であり「政治家や閣僚の関与はなかったと認識している」と、これまでの政府見解を繰り返した。
安倍氏の国葬を巡っては、自民党の上川陽子幹事長代理の質問に、首相経験者の国葬実施ルールの策定を目指す考えを示した。一歩前進だが、国会論議を反映するのは当然だ。
物価高騰や新型コロナウイルス対策、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮対応など外交・安全保障問題も取り上げられた。いずれも国会で徹底した議論が求められる課題だが、安倍、菅両政権で指摘された国会軽視の姿勢を岸田政権でも感じざるを得ない。
憲法53条は衆参両院のいずれかで総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時国会を召集しなければならないと定める。立民や日本維新の会など野党5党は、憲法の規定に基づく臨時国会召集要求があった場合、20日以内の召集を政府に義務付ける国会法改正案を共同提出した。
野党は、第2次岸田改造内閣の閣僚ら自民党議員と旧統一教会側の接点が相次いで発覚した8月の段階で、臨時国会の召集を正式に申し入れていた。だが憲法が召集期限を定めていないことから岸田政権は応じず、国会開会を10月まで先送りした経緯がある。
自民党は野党時代の12年にまとめた憲法改正草案に「20日以内に召集」しなければならないと明記。関連文書には「少数者の権利として定めた以上、召集は当然である」とまで書いている。改憲によらず国会法改正で対応できるはずで、自民党総裁である岸田首相がリーダーシップを発揮すれば、与野党で合意を図るのは可能だ。
泉氏は代表質問の冒頭で賛同を促したが、首相は国会の議論に委ねる考えを示しただけだった。国会での審議にどこまで重きを置くのか。岸田首相の初心の真贋(しんがん)を見極めるテーマであろう。