OPECに加盟するイラク南部にある油田=3月27日(ロイター=共同)
OPECに加盟するイラク南部にある油田=3月27日(ロイター=共同)

 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど主要産油国でつくるOPECプラスは、11月に世界需要の2%に相当する日量200万バレルの大幅減産を実施することを決めた。インフレ抑制に伴う世界経済の減速懸念で原油価格がロシアのウクライナ侵攻前の水準まで落ち込んでおり、需給を引き締めることによって相場の下支え・反転を狙ったものだ。

 価格が上がれば、短期的には産油国の原油収入は増え、国家財政は潤うだろう。しかし、消費国の経済が失速すれば、需要の減退につながる。これは産油国の首を絞めることにもなる。

 ウクライナ危機がエネルギー、穀物相場に混乱をもたらし、インフレ圧力が強まる米欧は、景気後退も覚悟して金融引き締めを進めている。米ドルの高騰は途上国の債務拡大や資金流出につながりかねないとの懸念も深まっている。

 世界経済は現在、極めて不安定な状態に置かれており、エネルギーの適切な価格での安定供給は、経済活動を維持する上で死活的に重要だ。それを維持することが産油国の責任であるはずだ。

 目先の相場動向に左右されるのではなく、脱炭素化が進むエネルギー革命の進展や、それに伴う経済・産業構造の変革など大局を見据え、消費国との共存共栄を志向しなければならない。

 大幅減産は早速、市場に影響を与え、米原油先物は一時、9月中旬以来となる1バレル=88ドル台まで上昇し、東京商品取引所の中東産原油の先物も一時約1カ月ぶりの高値をつけた。OPECプラスは次回の閣僚級会合で、原油相場の動向のほか、消費国の経済動向なども勘案した上で、減産量の縮小や撤回なども含め適切な対応を取るべきだ。

 一方で、原油市場関係者の間では、OPECプラスは相場次第ではさらなる減産も視野に入れているとの指摘もある。価格が狙った水準に戻らない場合、そうした判断はあり得るかもしれないが、今は非常時と認識するべきだろう。

 開発コストを吸収し、一定の利益を上げることができる価格帯であるならば、それ以上深追いをしてはならない。原油はロシアの主要な収入源であり、その価格上昇はロシアの戦費調達を助けることになる。この点からも追加減産は好ましくない。

 米ホワイトハウスは「減産という近視眼的な決定に、バイデン大統領は失望している」との声明を発表、産油国側の出方をけん制したが、状況によっては、もっと踏み込んだ対応が必要になるかもしれない。

 産油国と消費国の溝がさらに深まる事態は避けなければならないが、消費国側も経済運営で胸突き八丁を迎えている。OPECの盟主サウジアラビアへの働きかけを強化し、必要なら消費国と産油国のエネルギー担当閣僚の会談も考えなければならないだろう。

 脱炭素に対応し消費国が化石燃料の使用削減を進めることは当然だが、一足飛びに温室効果ガスの排出をゼロにできるわけではない。過渡期では一定の化石燃料は必要だ。その意味で、産油国が一定の生産を維持するための投資資金を確保することはエネルギー安定供給にとっては重要だ。こうした側面も含めて、消費国と産油国の間で情報交換を密にし、相互理解を促進する機会を増やしたい。