「城端線の無人駅で降りる時にキセル(不正乗車)を疑われた。ワンマン列車の降り方を教えてほしい」。北日本新聞「あなたの知りたいっ特報班(知りとく)」に、こんな投稿が寄せられた。富山県西部を走るJR城端線は無人駅の多い鉄道で、運転士1人しか乗車しないワンマン列車が走る。JR西日本金沢支社は「無人駅では先頭車両一番前のドアから降りるのが原則。後ろのドアは乗る人のために開く」と説明。ただし「駅や時間によって違いがあり複雑なので車内放送を聞いてほしい」と付け加えた。複雑ってどういうこと?(北日本新聞・松下奈々)
■富山は「鉄軌道王国」
富山県内には、6事業者12路線の鉄軌道が走り、全15市町村全てに鉄道の駅がある。県は「鉄軌道王国とやま」という特設サイトを運営し、多種多様な鉄軌道をPRしている。あまり知られていないが、富山は「鉄軌道王国」なのだ。
ワンマン列車は、運転士1人しか乗車しない列車のこと。無人駅の場合、運転士が定期券の確認なども担う。「降りる時は先頭車両の一番前のドア」という原則は、先頭にいる運転士が確認しやすいからだ。
県内でワンマン列車を運行するのは、JR西日本の城端線、氷見線、高山線の他、あいの風とやま鉄道、富山地方鉄道などがある。
■車内放送は1回
城端線に乗ってみた。あいの風とやま鉄道富山駅から乗車し、高岡駅で城端線に乗り換え、無人駅の林駅(高岡市東藤平蔵)に向かう。城端線に乗るのは初めて。夕方、高岡駅で朱色2両編成の列車に乗り込んだ。降りやすいよう先頭車両に乗った。
林駅に着く前に一度車内放送で降り方の案内があった。眠くてうとうとしていたため、肝心な所を聞き逃してしまった。どうしよう。もう一度放送してくれるかもと期待したが、1回きりだった。
■同じ無人駅でも…
林駅では2車両全てのドアが開いた。一番前のドアへ向かったが、運転士が確認のため運転席から出てくる様子はないので、そのまま降りた。降りたのは自分1人だけ。ホームを見渡すと、切符回収ボックス(集札箱)があった。そういうことか。ボックスに切符を入れると背後から「ありがとうございました~」と声がかかった。振り返ると、列車の小窓から運転士が顔を出していた。切符の投入を確認していたのだと後で気付いた。

帰りは林駅から新高岡駅(高岡市下黒田)へ。新高岡駅では運転士がホームに降りて切符の回収や定期券の確認をしていた。同じ無人駅でも、林駅と対応が違う。北陸新幹線との接続駅で利用者が多いからかもしれない。

■車内放送で案内
「知りとく」の投稿者は定期券の利用者だった。いつもと違う駅で後ろのドアから降りたところ、キセルを疑われたという。
JR西日本金沢支社の担当者は「車両前方のドアから降りるようアナウンスした時は、後方から降りた人に声をかけることがある」と説明。降り方には原則はあるものの「複雑なので車内放送を聞くのが一番いい」とのことだった。
■夜間のみ無人の駅も
どう複雑なのか。城端線は全14駅のうち8駅が無人駅。原則、無人駅では原則1両目のドアしか開かず、「後乗り・前降り」となる。ただし通勤・通学など一部の時間帯は降りる人が多いため、全ての車両のドアが開くことがある。
有人駅6駅も、戸出、砺波、福野、福光の4駅は夜間のみ無人となるため、無人駅と同じ降り方になる。さらに無人駅でも自動券売機がある駅とない駅がある。時間帯や駅によって乗降のルールが変わっているのだ。
自動券売機がない無人駅から乗った場合、乗車時に車内で整理券を取り、降車駅で精算する。降車駅が無人だった場合、ホームにある集札箱におつりのないよう料金と整理券を入れる。定期券や投入金額の確認を徹底するのは難しく、「ある程度乗客への信用に委ねる部分がある」(JR西日本金沢支社の担当者)。
なるほど、確かにちょっと「複雑」だ。

■他社はどうか
JR西日本では城端線の他、氷見線と高山線でも同様の対応をしている。
他社はどうか。あいの風とやま鉄道では、全ての無人駅に自動券売機と集札箱がある。城端線と似た部分もあるが、無人駅の対応は統一されていた。
鉄道と路面電車(市内電車)、路面バスを運営する富山地方鉄道はどうか。鉄道では無人駅の場合、「中乗り・前降り」が原則で、運転士が定期券の確認などを行う。同社はホームページに「乗り方案内」のコーナーを設け、3種類とも動画付きで乗り方・降り方を紹介。これがとても丁寧で、バーチャル乗車体験に近い感覚だった。これなら初めての乗車でも、あたふたしないで済みそう。
■降車は一番前が無難
とりあえず、知らない駅で降りる時は、車内放送に注意すること。ただし放送は1駅につき1回きり。聞き損ねた時は、運転士のいる先頭車両の一番前方のドアから降りれば間違いなさそうだ。
JR西日本金沢支社の担当者は「不正乗車を疑われるなど嫌な思いをされた時はぜひ直接、ご意見を聞かせてほしい」と話している。JR西日本お客様センターは電話0570(00)2486。
欧米は「信用乗車」 ライトレールが一時導入
欧米では、乗客が切符を自分で管理し、乗務員が運賃を収受しない信用乗車方式が普及している。車内での移動距離が短く、スムーズな乗降につながる。課題となる無賃乗車に対しては、抜き打ちで検査して高額の罰金を課している。
富山県内では、旧富山ライトレールがICカード利用者に限って同様の方式を採用していた。乗車用の後方ドア近くに設置されたリーダーにカードを読み込ませれば、後方ドアからも降りられる仕組みだ。2020年3月の路面電車の南北接続に伴って廃止された。
国内では、鉄道事業者は不正乗車した人に対し、最大で運賃の3倍まで請求できると鉄道営業法が定めている。