日本初の鉄道開業から150年を迎えた。国の発展と産業振興に歴史的な役割を果たしてきた鉄道だが、人口減と車などほかの輸送手段との競合、そして新型コロナウイルスの影響により多くのローカル鉄道は存廃の危機にある。少子高齢化やデジタル化が進む時代に適した交通手段として、利便性向上の一方で、鉄道の形態にとらわれない変革が求められている。
1872(明治5)年10月14日に新橋―横浜間でスタートした鉄道の歩みは、近代日本の勃興と二人三脚と言っていい。
国と私鉄が競うように全国の幹線、都市部の鉄道を整備。貨客の大量、迅速かつ安価な輸送を可能としたことで経済活動の礎になると同時に、その機能が第2次大戦に至る戦時体制を支えた。
先の大戦により国土とともに甚大な被害を受けた鉄道だが、戦後間もない1949年の日本国有鉄道設立などを経て復興。高度成長期の64年に東海道新幹線が開業し高速化の幕が開く一方で、地方の過疎化や車との競合などによって国鉄経営は慢性的な赤字に陥った。
国鉄の抜本的な立て直し策が旅客・貨物のJR7社体制とする分割民営化で、今年はそれから35年でもある。JR北海道、四国、九州の3社にとどまらず本州各地でも深刻な現在の赤字ローカル線問題は、わが国の鉄道経営が新たな転換点に立たされていることを示している。
肝心なのはローカル線問題を鉄道事業者や沿線自治体任せにするのでなく、国、住民を含めて当事者意識を持ち、どのような地域交通網が次代に必要とされ最適なのかを考えることである。
国土交通省の有識者検討会は7月、1キロ当たりの平均乗客数が1日千人未満と利用が極度に落ち込んだ線区を対象に「協議会」を設置し将来像を探るよう提言した。ここで求められているのも関係者が「自分ごと」として問題に取り組む姿勢だ。
鉄道を存続させる方法は一つではない。鉄道は線路や駅舎、車両の維持・更新に多大な費用を必要とする。このコストを事業者から切り離し、自治体などが負担する「上下分離方式」を採用した各地の先行事例は、その有効性を示していよう。
バスへ転換する場合でも、従来と異なり、専用道を設けるバス高速輸送システム(BRT)が具体化し始めた。停車地や運行頻度に住民の声を反映させるなど、利用増への工夫が可能という。
いずれの選択肢も鍵を握るのは費用負担の在り方であり、その議論を避けて時間を無駄にしてはならない。国や自治体の支援は不可欠で、滋賀県が検討中の「交通税」のような安定財源の取り組みは注目に値する。
鉄道の歴史は技術の進歩とスピードアップの歴史である。9月には佐賀・武雄温泉―長崎間で西九州新幹線が開業、東京・品川―名古屋間では時速500キロのリニア中央新幹線の建設が進む。移動時間の短縮と新技術の登場は魅力だが、150年の節目を今の時代にふさわしい鉄道整備か改めて考える機会としたい。
温暖化防止へ省電力が課題となる中で、リニアは新幹線を大幅に上回る電力を消費する。整備新幹線とともに建設費は莫大(ばくだい)ながら、それに見合う利用の有無は不透明だ。債務37兆円を抱えて行き詰まった国鉄の負の側面を忘れてはならない。