株価操縦事件を引き起こしたSMBC日興証券が金融庁から、3カ月間の一部業務停止命令を受けた。これまでの調査や検察による捜査で、ルールを守る意識が社内全体に乏しかったことが分かっており、厳しい処分は当然だ。
この事件とは別に、SMBC日興は同じグループの三井住友銀行と、顧客企業の情報を無断で共有していたことも判明し、同庁は業務改善を命令した。持ち株会社の三井住友フィナンシャルグループ(FG)も行政処分を受けた。
いずれも市場の公正さを守るために欠かせないルールであり、三井住友グループは規制を守る意識が浸透していないと見なされても仕方がない。企業風土が営業に偏重していなかったか早急に見直さねばならない。
「メガバンク」と呼ばれる三大金融グループは、いずれも銀行と証券会社を傘下に置き、幅広い金融商品を扱いながら事業拡大を目指している。
金融庁はこの10年ほどの間に金融グループの監督を銀行から、持ち株会社を中心に見る態勢に転換してきた。金融持ち株会社の機能は、グループ全体の資本配分や投資先の選定などに加え、傘下企業の統治や法令順守にも広がっている。
金融監督のこうした枠組みから考えれば、基本的な取引ルールに違反する行為がグループの証券会社でまかり通っていたなら、持ち株会社が是正を主導するべきだろう。
株価操縦事件は証券業務に精通した現場の部長らが手がけた。通常の取引時間外に特定の銘柄の株式を大株主から買い取り、投資家に転売する「ブロックオファー取引」が利用された。
東京地検の捜査で組織ぐるみの違法取引と認定され、SMBC日興は法人としても起訴された。銀行出身の経営幹部はこの取引を止めておらず、証券関連のルールにどこまで精通していたのか、疑問が残った。
多くの銀行はグループの証券会社に人材を送り込み、経営に深く関与してきた。事件の背景に銀行による支配があるとすれば、グループの人事や内部管理を根本から見直す必要がある。
一方、銀行と証券の間の顧客情報を勝手に共有していた問題も深刻だ。日本では銀行は融資先企業に対し、優位に立つことが多い。このため、銀行の圧力で証券子会社の金融商品の購入を企業が迫られたりしないように、銀行と証券の間に「情報の壁(ファイアウオール)」が設けられてきた。
金融グループの情報共有の規制は次第に緩和されているが、顧客の同意を得ることが条件になってきた。預金や融資を扱う銀行と、多くの金融商品を販売する証券会社の間に一定の業務障壁があるのはやむを得ない。
メガバンクの中でも、三井住友は強力な営業力を持つことで知られている。経営が利益重視やライバルとの競争に傾斜し、企業統治や法令順守に隙が生まれていなかっただろうか。持ち株会社は自らの責任を自覚し、グループ各社を含め、徹底的に改善すべきだ。
地方銀行でも持ち株会社を使った再編が相次いでいる。独自性を残しながら規模を拡大できる便利な方式だが、それだけでは役割を果たしたことにならない。ルールを逸脱しないように傘下銀行の教育を徹底し、収益力向上と法令順守の両立に向き合わねばならない。