先日、処方箋を手に薬局に駆け込んだ際の話。窓口にできた列の前の男性が、白衣の女性から「マイナンバーカード(マイナカード)をお持ちですか」と尋ねられ、首を横に振った。健康保険証にも使えて便利と勧められ、横にずれて説明が始まった。回ってきた順番で同じことを聞かれ、首を振って保険証を出した▼キャッシュレス決済の買い物などに最大2万円分使える特典「マイナポイント」付与の張り紙もあり、「これを機会に」と考える人もあったろう。ただ、ファストフード店の店員から期間限定商品を注文前に勧められるようで、違和感を覚えた▼元をたどれば全国民のカード取得を目指す国のなりふり構わぬ姿勢がある。ポイント付与期間は延長され、交付金配分と絡められた自治体は取得率を競う。2024年秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナカードと一体化する方針まで打ち出された▼いずれ「義務化」されるなら早くポイントをもらおう。そう考えるのが自然かもしれないが、それでいいのかと思ってしまう。へそ曲がりは自覚している▼カードを取得すれば、何が、どうなるのか、説明はまだまだ足りない。「デジタル田園都市」の基盤だというなら、都市と地方のどんな未来を描いているのか共有するのが先だろう。地域課題の解決にデジタル化が役立つ期待も、先導役がむちを片手にニンジン作戦では、しぼんでしまう。(吉)