13日、カンボジア・プノンペンで会談に臨む韓国の尹錫悦大統領(左端)と岸田首相(内閣広報室提供・共同)
13日、カンボジア・プノンペンで会談に臨む韓国の尹錫悦大統領(左端)と岸田首相(内閣広報室提供・共同)

 岸田文雄首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議のために訪問中のカンボジアで、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と初めて会談した。両首脳は最大の懸案である元徴用工問題の早期解決を図る方針で合意。弾道ミサイルの発射を頻繁に繰り返す北朝鮮の核・ミサイル問題に対応するため日米韓の安全保障協力を強化することで一致した。

 岸田首相はバイデン米大統領とも会談するとともに、日米韓3カ国の首脳会談も行い、北朝鮮の非核化に向けて連携して対応する方針を確認、共同声明を発表した。

 日韓首脳の正式な会談は2019年12月、当時の安倍晋三首相と文在寅(ムンジェイン)大統領の会談以来、約3年ぶりだ。北朝鮮が10月に日本上空を飛び越える弾道ミサイルを撃つなど、地域の脅威となる行動を強めている中で、日本にとっても韓国の情報と連携対応が不可欠だ。

 日韓首脳は9月にニューヨークで顔を合わせたが、日本側は「懇談」として非公式な位置付けにとどめた。5月に就任した尹大統領は日本との関係改善に意欲を示しており、正式会談はもっと早く行われるべきだった。これを機に対話の機会を増やし、かつての相互訪問(シャトル外交)も念頭に冷え込んだ両国の関係修復を急ぐべきだ。

 日本の植民地時代の韓国人元徴用工に対して韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた判決から約4年。外交当局間では敗訴が確定した日本企業の賠償金を韓国の財団に肩代わりさせる案を軸に協議している。ただ、韓国内では反発も強い。支持率が低迷する尹政権に国内を納得させる力があるのか。日本側も1965年の日韓請求権協定で解決済みとの原則に立ちながらも、解決に向けて双方が知恵を絞るべきだ。

 何よりも優先させなければならないのは北朝鮮の核・ミサイル問題への対応だ。北朝鮮は今年に入って異例のペースで弾道ミサイル発射を繰り返しており、7回目の核実験を行うとの観測もある。両首脳が米国を交えた3カ国の安保協力と抑止力強化で合意したのは当然だろう。

 ただ、韓国は対抗措置として今月初め、ミサイル3発を発射している。緊張を高める報復的な行為は控えるべきだ。日本政府として地域の安定に向け、対話の道を探る方策を米韓両国にも働きかけていくべきだ。

 今年6月にスペインで開かれて以来となる日米韓の首脳会談では、北朝鮮が核実験を行った場合は「国際社会の断固とした対応に直面することになる」と警告。共同声明では「台湾海峡での平和と安定の維持」の重要性を強調した。

 対中国を念頭に、戦略物資の安定調達など経済安全保障に関する対話機構の発足も決めた。バイデン氏と中国の習近平国家主席が初めて対面会談を行うのを前に連携を確認したものだ。中国側の出方を注視したい。

 岸田首相とバイデン氏との会談では中国の軍事力拡大を念頭に日米同盟の強化を確認。「自由で開かれたインド太平洋」の実現への連携でも一致した。

 一方、首相は日本の防衛力の抜本強化に向けて、防衛費の相当な増額を伝えた。しかし、防衛費増額などが焦点となる「国家安全保障戦略」の改定はこれから決定される。対米公約を先走る首相の対応は国内論議の軽視と指摘せざるを得ない。