宗教法人法に基づく「質問権」行使の基準を検討する文化庁の専門家会議の第2回会合=8日、東京・霞が関
宗教法人法に基づく「質問権」行使の基準を検討する文化庁の専門家会議の第2回会合=8日、東京・霞が関

 政府は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、宗教法人法に基づく質問権を行使し調査に乗り出すことを決めた。先に文化庁専門家会議が策定した行使が認められる一般基準に該当すると判断、永岡桂子文部科学相が11日正式表明した。

 月内に質問事項を宗教法人審議会に諮問するなど手続きを進める。調査の結果、教団の違法行為と「組織性、悪質性、継続性」が確認されれば、裁判所に解散命令を請求する方針だ。

 この間、政府には年内の権限行使という「結論ありき」の姿勢も見受けられた。支持率低下にあえぐ政権浮揚狙いとの指摘もあった。理由を問わず、前のめり過ぎる姿勢は危うい。憲法が規定する「信教の自由」や「政教分離」に細心の注意を払ってもらいたい。

 政府の調査結果は、いずれ司法の審査を受けることが予想される。予断を排し、適正な手続きを着実に進めてもらいたい。それが結果的に、迅速な教団の実態把握や被害救済につながるはずだ。

 専門家会議による基準策定は法定の手続きではないが、質問権や報告徴収権の行使は前例がなく、将来の恣意(しい)的な行使を防ぐためにも必要な対応だったと言える。

 宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」などの場合、裁判所が当該宗教法人に解散を命じることができると規定。裁判所に命令を請求できる文科相らの調査権限は、その「疑い」があれば行使可能としている。

 基準では「『疑い』は風評などによらず、客観的な資料、根拠に基づく」と限定。その上で(1)公的機関が法人に属する者の法令違反や法人の法的責任を認定(2)相当数が繰り返され、被害が重大―などを要件とした。

 政府の集計では、献金や勧誘などを巡り、旧統一教会の組織的な不法行為が認められた民事判決が2件、信者の不法行為と教団の使用者責任を認めた判決が20件ある。永岡氏は損害賠償額は少なくとも計14億円に上るとして「広範な被害や重大な影響が生じている疑いがあるとの基準に該当する」と説明した。

 首肯できる結論だが、一方で基準策定のプロセスには懸念が残ったのも事実だ。

 専門家会議のメンバー19人全員が、質問事項などの諮問を受ける宗教法人審議会の委員だった。宗教法人に対する政府の不当な介入がないかチェックする側が、政府のルール作りに関わったことになる。

 諮問などの手続きを円滑に進める工夫というわけだろうが、法の趣旨に照らして公正さの面で疑問視する声もある。

 また専門家会議の会合は、2週間で2回開かれただけで、原則非公開だった。重要な基準作りをめぐってどんな議論が交わされたのか、議事録を公開するなど透明性も確保するべきだ。

 調査を担当する文化庁宗務課は定員8人だったが、法務省、警察庁、金融庁、国税庁から法曹資格や会計の専門知識を有する職員の派遣を受けるなどし、今月1日には38人態勢に拡充された。

 調査の結果、解散命令を請求した場合、教団は司法の場で徹底的に争うだろう。調査の適否も詳細に検証されることになる。適正手続きと客観証拠の積み重ね、冷静な判断が不可欠だ。政府は肝に銘じてもらいたい。