東京五輪・パラリンピック汚職事件を巡り、東京地検特捜部は受託収賄罪で大会組織委員会の元理事高橋治之被告を追起訴した。4回の起訴で賄賂の総額は約2億円に上った。贈賄側は紳士服や出版、広告などの大手トップら12人。組織委元会長の森喜朗元首相や日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長も事情聴取を受けた。
高橋被告は贈賄側の度重なる請託に応じ、大会スポンサー選定やライセンス商品販売などに絶大な影響力を振るったとされる。背景にはスポンサー集めで広告最大手の電通に頼り切った組織委が、電通元専務でスポーツビジネスの第一人者といわれる被告に牛耳られたという構図が浮かぶ。
4年に1度、世界中の選手らが集うスポーツの祭典に絡み繰り広げられた利権の争奪戦があらわになり、五輪のイメージを大きく損ねた。国際社会の不信を招き、2030年冬季五輪の札幌招致に影響が及ぶのを懸念する声が広がる中、国際大会での再発防止に向け東京都やJOC、スポーツ庁は相次いで検討組織の設置を発表している。
まずは、高橋被告の暴走を許した組織委の機能不全や「ブラックボックス」と指摘されるスポンサーの選定過程など問題点を余すところなく検証し、国民につまびらかにすべきだ。徹底した検証と反省を踏まえた改革でなければ、広く理解を得るのは難しいだろう。
組織委は14年1月に発足した。森氏が会長、竹田氏が副会長の1人になり、竹田氏と慶応大の同窓で長年の付き合いがあったとされる高橋被告はその年6月、理事に選ばれた。竹田氏は東京五輪招致委員会の理事長も務めたが、招致に絡む贈賄疑惑でフランス司法当局の捜査対象となり、19年6月にJOC会長と組織委副会長を退任した。
高橋被告は招致のロビー活動にも関与。13~14年自身のコンサルタント会社に招致委から計9億円が送金されたが、使途は不明のまま。竹田氏の疑惑もきちんと調査されることなく、大会開催に至り「カネにまみれた五輪」とささやかれた。
不正を生む土壌はあった。そんな中、起訴内容によると、高橋被告は精力的に仲介ビジネスを展開。多くの電通社員が出向していた組織委の担当部局に働きかけ、紳士服のAOKIホールディングスや出版のKADOKAWAによるスポンサー選定の請託に応えた。
広告会社の代理店業務参入や、ぬいぐるみ販売会社のライセンス商品販売にも便宜を図った。この間、贈賄側企業のトップと森氏や竹田氏との会食をセットしていた。
大会には国や都が巨額の公金を支出した。このため組織委の理事は法律上、公務員に準じる「みなし公務員」と規定され、職務に関し金品を受け取れば罪に問われる。一連の事件を通じ、とりわけ深刻さが浮き彫りになったのは、組織委の機能不全だ。高橋被告の動きを全くチェックすることができなかった。そもそも、その気がなかったとの見方まである。
組織委は既に清算法人になり、検証作業について「業務の範囲外」とコメント。個人情報が含まれるのを理由にスポンサー企業との契約文書などの開示に否定的な立場を取っている。歴史的な汚点と向き合い、出直すため、検証には国も積極的に関わり、説明を尽くすことが求められよう。