15日、爆発があったポーランド東部で道路を封鎖する警察(Agencja Wyborcza.pl提供・ロイター=共同)
15日、爆発があったポーランド東部で道路を封鎖する警察(Agencja Wyborcza.pl提供・ロイター=共同)

 ロシア製とみられるミサイルが、ウクライナに隣接するポーランド東部に着弾し、2人が死亡した。

 着弾したのはロシアのミサイルを迎撃するためにウクライナ軍が発射したミサイルとの見方が出ているが、ロシアのウクライナ侵攻後、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に着弾し、犠牲者が出たのは初めてだ。

 ミサイル着弾は事実であり、紛争当事者ではない国で一般市民が死亡した悲劇は軽視できない。

 もし、ロシア側による意図的な攻撃であれば、ポーランドが加盟するNATOは、集団的自衛権の発動を迫られる。ともに核兵器を保有するロシアとNATOの直接対決は絶対に回避しなければならない。

 一方で、米国のバイデン大統領は、先進7カ国(G7)とNATOの緊急首脳会合で、ウクライナから飛来した対空ミサイルだった兆候があると説明した。短絡的な判断と行動は厳に慎まねばならない。

 双方はウクライナを加えて、事実関係の調査を急ぐとともに、対話を通じて緊張緩和に全力を尽くし、武力紛争が拡大する芽を早期に摘み取るべきだ。国際社会の危機管理能力も問われている。日本もG7の一員として積極的に関与したい。

 ロシアは15日にウクライナ全土にミサイル攻撃を加えた。ウクライナのゼレンスキー大統領は「重要なエスカレーションで行動が必要だ」と述べた。衛星からの監視情報や、着弾したミサイルの残骸を専門的に検証すれば客観的な評価が可能だろう。包括的な調査を進めるため国際的な協力態勢を即座に構築するべきだ。

 今回のミサイル着弾を、和平という大きな構図の中で捉える視点も持ちたい。

 ポーランドへのミサイル着弾の経緯がどうであれ、ロシアが武力侵略を継続し、NATOが集団的自衛権を中核とする軍事機構である限り、一触即発の潜在的危険を消し去ることはできない。

 根本的な解決を図るためには、ウクライナの紛争を早期に終わらせるしか道はない。ロシアとウクライナの和平交渉は3月を最後に途絶えたままだ。直接の原因はロシア軍による住民虐殺などの戦争犯罪である。

 国連憲章に違反する侵略や戦争犯罪、核兵器を使用する用意があるとの威嚇行為を容認することはできない。だが戦闘だけで事態を収拾することは、客観的には不可能と判断せざるを得ない。対話の再開は不可欠である。

 停戦の条件は、支配する領域の範囲と密接に関係する。ウクライナ側には停戦によって、奪われた領土のロシア支配が事実上定着するとの危惧があり、現状での交渉には消極的にならざるを得ないのだろう。

 国際社会はウクライナへの軍事支援を継続する一方で対話復活の機会も探らねばならない。戦場でウクライナを支援しロシアの軍事的脅威を低減させる努力と並行して、仲介役としての役割も引き受ける複合的なアプローチが喫緊の課題である。

 米国のバーンズ中央情報局(CIA)長官とロシアのナルイシキン対外情報局長官の会談が伝えられたことは、前向きに評価したい。ポーランドへのミサイル着弾を、紛争収拾への起点として位置付ける英知が、紛争当事国のみならず世界に求められている。