1カ月足らずの間に閣僚3人が辞任したことに対する真摯(しんし)な反省と、政治不信解消への決意表明が求められていたはずだ。残念ながら岸田文雄首相の答弁からはそうした姿勢が伝わらず、問題認識の浅薄さや指導力不足を懸念せざるを得ない。
臨時国会は終盤に入り、2022年度第2次補正予算案を巡る審議が始まった。国の針路に関わる予算案質疑は、時の政権が信任に値するかどうかが問われる場でもある。国民の理解と協力が予算執行の土台になるからだ。
ましてや10月に山際大志郎前経済再生担当相、11月には葉梨康弘前法相と寺田稔前総務相が、閣僚としての資質を疑われて交代するという異常事態で迎えた予算案審議である。
しかしながら、首相は「誠に遺憾であり、任命責任を重く受け止めている」「政府一丸となって国政運営に取り組むことで職責を果たしていきたい」と、型通りの答弁を繰り返した。
多くの国民が生活苦にある中、予算案や重要法案の審議日程に影響したことを踏まえるなら、国民の心に響く言葉で謝罪すべきだったろう。その上で、閣僚が世論から指弾されるような言動をした場合、直ちに厳格対応すると誓う必要があったのではないか。
3閣僚辞任の理由は、山際氏が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との不明朗な関係、葉梨氏が死刑制度に絡んだ不適切発言、寺田氏が政治資金問題とそれぞれ違う。
共通するのは、岸田首相がいずれの場合も説明責任を尽くすよう「指示」していたことだ。にもかかわらず3人の説明では責任逃れの発言が目立った。首相の統率力にも疑問符が付いたといえる。
山際氏は閣僚辞任後間を置かず自民党の要職に就いた。任命責任の重さに言及しながら、党人事で処遇していたら、口先だけの反省と受け止められても仕方あるまい。
岸田首相に関しては、昨年の衆院選に伴う選挙運動費用収支報告書に添付した領収書の不備が明らかになった。公選法は領収書に支出の目的などを記載しなければならないと定めるが、首相のケースではただし書きのない領収書が98枚あったという。だが、首相は支出自体は「適正だ」として、さほど問題視していないようだ。
岸田内閣では、秋葉賢也復興相も「政治とカネ」の問題を抱え、国会で追及を受けている。自民党総裁であり、行政府の長である首相が誰よりも自らを厳しく律する態度を示さなければ、威令は政権内に行き渡るまい。
第2次補正予算案は30兆円近い規模で、物価高の負担軽減策や新型コロナウイルス感染症対策に力点を置く。だが財源の8割を国の借金となる国債に頼り、財政はさらに悪化する。
しかも国会の事前決議が不要な予備費を4兆7400億円計上したことから、財政規律の緩みも危惧されている。野党は自民党の要求で積み増したとされる予備費の在り方を追及したが、首相の答弁から十分な根拠はうかがえなかった。
予算案の妥当性について、首相には国民の納得が得られるよう説明する責務がある。だが同時に、閣僚辞任や自身も指摘された政治資金問題で低下した信頼を回復しなければ、どんな言葉も空疎に聞こえると肝に銘じるべきだ。