1957年のチャートも50位までしか公表されていない。前年ほどではないにせよエルヴィス・プレスリーの牙城は確固たるものがあり、年間1位「恋にしびれて」、9位「トゥ・マッチ」、14位「テディ・ベア」、16位「監獄ロック」という具合。日本人のわれわれにとっては「監獄ロック」が1位ではないのは不思議な気がするが、1月にリリースされた「恋にしびれて」は8週間連続1位でプラチナディスク受賞(レコード販売100万枚以上)。一方、9月に発売された「監獄ロック」は7週間でプラチナよりは格下のゴールドディスク(50万枚以上)。世に出た時期が違うということはあるものの、実際に人気が高かったのは「恋にしびれて」だった。
プレスリーの登場で変化が出たポピュラー・ミュージック。実はこの頃からミュージック・シーンに対する人々の接し方が変わってきたともいわれている。それまでは、人々はラジオなどを通して「この曲」「この歌」という形で楽曲そのものに興味を抱いていたのだが、曲よりもアーティスト(つまりスター)に対しての興味が中心になってきたのだそうだ。その要因の一つとして、テレビの普及ということがいわれている。今となっては当たり前のこととは言え、当時の人々にとってみれば耳で聴く上に目で見ることができるようになったので、楽しさや興味も倍増したに違いない。
さて、前年の56年に1位となった「ハートブレイク・ホテル」はドラマチックではあるものの、リズム的には激しい曲ではなかった。「恋にしびれて」もどちらかというとおとなしめのリズムだ。ツイストでガンガン踊る、という感じではなく、椅子に座ってかかとを地面につけ、つま先で4拍子のリズムを取りつつ身体を揺すりながら2拍目と4拍目にフィンガースナップ、すなわち指パッチンを入れるのが似合う曲だ(と思う)。
プレスリーを頂点とするロックンロールだが、意外なことにチャートインは年間50位以内に9曲のみ。既出のとおり、そのうち4曲がプレスリーで、他にリッキー・ネルソンが2曲、クリケッツ、チャーリー・グレーシー、バディ・ノックスといった面々が1曲ずつランクインしている。ロックンロールを含め50位以内を占めていたジャンルを調べてみると、最も多く占めていたのは王道とも言えるポップスで18曲(36%)。次がR&Bつまりリズム・アンド・ブルースで13曲(26%)。以下、ロックンロール9曲(18%)、カントリー&ウェスタン5曲(10%)、映画音楽2曲(4%)、それに英国ポップス、カリプソ、フォークがそれぞれ1曲ずつ(各2%)だった。もっとも、このジャンル分けはあくまで筆者の主観に基づくもので、正式にビルボードから公表されているものではない。
このように見てみるとR&Bが結構なウエートを占めているのが分かる。前年には6曲しかチャートインしていないにもかかわらず急激に票を伸ばしてきたのには何かわけでもあるのだろうか。正直なところ、その理由までは絞り込んではいないが、想像するに一つにはプレスリーをはじめとするロックンロールの隆盛が、親のような存在のR&Bになにがしかの貢献をした可能性はあるのだろうと思う。「随分ノリの良いロックンロールだけど、元になったR&Bはどうなのだろう」などという音楽的好奇心が深まったのかもしれない。
もう一つはこの当時活発になりつつあった黒人を取り巻く公民権運動の影響だ。黒人の権利を尊重しようという空気が高まりだし、そこからR&Bに対する興味も沸き上がってきたとひもづけするのは短絡的だろうか。白人アーティストが主流のポピュラー・ミュージックは穏やかで親和的ですらあるが、ブルースの流れをくむR&Bは自己主張が強く激しさも併せ持つ。時代背景の変化がミュージック・シーンにも影響を与え、R&Bに人々の目を向けさせたのかもしれない。
ちなみにR&Bというネーミングが正式に使われるようになったのは47年のことで、それ以前はRace Music(レイス・ミュージック)と呼ばれていた。Raceという単語は、競争という意味ではなく人種や民族のことを意味していたという。
ということで、次回はこのR&Bの中から気になるタイトルをピックアップしてみたいと思う。
(オールディーズK)
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