外国人の収容・送還のルールを見直す入管難民法改正案を巡り、与野党の修正協議が物別れに終わった。難民認定申請中は強制送還しないとする現行の規定を改めて申請回数を2回に制限し、理由が同じなら3回目以降はいつでも強制送還できるようにするのが改正案の大きな柱。野党はその削除など10項目にわたる修正を要求していた。

 さらに名古屋出入国在留管理局で3月、収容中に体調不良を訴えていたスリランカ人女性が死亡した事案の真相解明を優先すべきだと主張。死亡前の様子を記録した監視カメラ映像の開示や死亡に至る経緯の詳細な説明を求めた。与党は14日の衆院法務委員会での採決を翌週に持ち越した。

 改正案には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が「非常に重大な懸念を生じさせる側面がある」と全面的な見直しを求める異例の見解を発表するなど内外で批判が噴出。過去15年間に入管施設で収容中に死亡した外国人が少なくとも17人に上るとの調査もあり、入管行政の在り方が厳しく問われている。

 しかし政府は、そんなことはお構いなしに今国会での成立に突き進もうとしている。このままでは「人権侵害」などの批判がやむことはないだろう。そうした声に真摯(しんし)に耳を傾けて外国人の人権に十二分に配慮し、管理強化から支援・保護の拡充へと入管行政全体の転換を図る必要がある。

 名古屋の入管施設で亡くなったスリランカ人女性は33歳。大学卒業後、2017年6月に来日して日本語学校に通っていたが、親からの仕送りが途絶えたため学費を払えなくなり、留学生としての在留資格を失った。退去強制命令を受けて20年8月から収容された。

 支援団体によると、女性は今年1月半ばから体調を崩した。まともに食事を取れず、歩くのも困難になり、入院や点滴、一時的に収容を解く仮放免などの措置を名古屋入管に申し入れたが、最後まで聞き入れられず、3月6日に亡くなった。

 法務省・入管庁は不法滞在したり、事件を起こしたりして在留資格のない外国人を原則全て収容する「全件収容主義」をとる。収容の可否は入管庁が決め、事件捜査で容疑者を逮捕するのと同様に人の自由を奪うことになるが、裁判所は全く関与しない。収容期間も「送還可能のときまで」と法律にあるだけで、上限は設けられていない。

 そうした中、19年6月に長崎県の施設で長期収容に抗議してハンガーストライキ中のナイジェリア人男性が餓死。国際社会から批判が相次ぎ、法改正のきっかけになった。改正案について、上川陽子法相は「全件収容主義は抜本的に改められ、収容者は減少し、長期収容は解消されていく」と意義を強調している。

 確かに送還の徹底を図る一方で、家族や支援者らを「監理人」として入管施設外での生活を認める「監理措置」を新設する。しかし監理人は生活状況の報告などを義務付けられ、場合によっては告発するような立場になりかねず、うまく機能するか疑問を拭えない。

 改正案が長期収容の解消につながるか不透明と言わざるを得ない。収容やその継続の可否を裁判所が判断したり、先進国の中でも桁違いに低い難民認定率の改善に向けて第三者が審査内容をチェックしたりする仕組みを早急に検討すべきだ。