審査員を務めて5年目。思わぬテーマに驚いた。1月にあった島根県高校弁論大会。将来の夢、家族や友人との人間関係といった題材が多い中、松江市内の女子生徒が選んだのが、高齢ドライバーの運転免許返納だった▼自らが暮らす地域を例に挙げ、「多くの公共交通機関が存在する都会と違い、地方都市は交通の便のいいところばかりではなく、コンビニやスーパーがない場所もある」と指摘。高齢で免許を返納したいものの、できない事情があるとし、「返納しても地域で暮らし続けるための移動手段の確保が必要だ」と訴えた▼県庁所在地でさえそうなのだから、中山間地域はもっと深刻だ。鳥取県東、中部のJA系スーパー計13店が2023年度中に閉店するという。赤字続きで業績回復が見込めないのが理由。地域の車を持たない高齢者は途端に日常の買い物に困ることになる▼特に若桜町では唯一のスーパーがなくなってしまう。「ここがないと生活できない。どうすればいいのか」。本紙で紹介した80代女性の嘆きは、生活インフラのもろさを浮き彫りにしている。買い物に限らず、医療体制も同様だろう▼島根、鳥取両県知事選が告示された。人口減少対策もさることながら、真っ先に求められるのが、県民が安心・安全に生活できる環境整備だ。「そんな心配は無用だよ」と冒頭の高校生を安心させる有益な施策を打ち出してほしい。(健)