第5回WBCで優勝を果たし、記念写真に納まる日本代表=マイアミ(共同)
第5回WBCで優勝を果たし、記念写真に納まる日本代表=マイアミ(共同)

 春分の日のおととい、東京の上野公園で花見に興じていた人たちのもう一つの楽しみは、スマホやタブレットの動画配信によるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準決勝、日本対メキシコの観戦。サヨナラ勝ちでの決勝進出に大いに盛り上がったようだ▼133年前、1890(明治23)年のこの日、同じ場所でベースボールに耽(ふけ)った青年が俳人の正岡子規。明治初期に米国から日本に伝えられた競技に魅せられ、古里の松山などに伝えた先駆者だ▼ヒガンザクラが咲く中、旧松山藩士の子弟が入る寄宿舎「常磐会」の面々による試合をした。<ボールを始めしや否や、往来の書生、職人、官吏、婦人など皆立ちどまりて立錐の地なし>と、随筆『筆まかせ』で盛況ぶりを記している▼ベースボールは「野球」と翻訳され、独自に発展。現在の代表チームの愛称に「サムライ」とあるように、若者の精神修養の手段としても重宝された▼しかし、WBCで選手が見せてくれたのは、我慢しながら勝機を探る「サムライ野球」というよりもむしろ、ヘルメットを投げ捨て塁間を疾走した大谷翔平選手の姿に象徴されるように、球を投げ、打ち、走るベースボールの原点。<久方のアメリカ人(びと)のはじめにし、ベースボールは見れど飽かぬかも>。聖地に思いをはせた子規は、後継者たちが決勝の舞台で「母国」を破った姿に快哉(かいさい)を叫んだに違いない。(万)