「己の欲せざるところは人に施すことなかれ」。このところのニュースに触れて、「論語」に残る孔子の言葉が度々浮かんできた。「自分が嫌だと思うようなことを人にしてはいけない」。その意味とは反対に、自分ならされたくないと分かっていながらの凶行や蛮行が目立っている▼全国各地で起きた広域強盗事件。インターネット上の「闇バイト」で集まった実行役がいたことも衝撃だった。「(組織に)個人情報を伝えてしまい、家族に危害を加えられると思うとやめられなくなった」。そう話す容疑者もいるという▼自分の家族が危険にさらされる恐ろしさを感じたのであれば、他の家族を不幸にすることに想像を広げ、犯行を思いとどまることはできなかったのか。組織の恐怖支配が上回っていたのかもしれないが、一連の事件では亡くなった人もいる。被害家族の奪われた日常は戻ってこない▼動画で拡散した飲食店での迷惑行為も許し難い。回転ずし店の醤(しょう)油(ゆ)ボトルをなめたり、他人の注文品にわさびをのせたり。「多くの人が嫌がること」と分かっているからこそ、撮影までしたのだろうが、その後の影響にまでは思いが及んでいない▼冒頭の孔子の言葉は思いやりに通じる。ハラスメントやいじめのほか、普段の生活の中でも意識せず、相手を傷つける場合がある。「己の欲せざるところ」かどうか、時に冷静に考えてみることも必要だ。(彦)