交換会の会場に並んだ種=出雲市内
交換会の会場に並んだ種=出雲市内

 きょうは春分の日。「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」として国民の祝日に定められている。四季がある日本ならではのありがたい日だと思う▼先日、出雲市内で毎年この時季に開かれている「種の交換会」に参加した。主催は村岡大吾郎さん(43)。地域おこし協力隊として7年前に関東から出雲市佐田町に移り住み、着任した農業法人が受託したみそ造りで、他とは違う大豆に出合った▼蒸したときに味が濃く、甘みが強い。持ち込んだ農家に聞くと、明治時代から代々つないだ黄大豆。ただ、後継者がおらず栽培をやめようとしていた。そこで立ち上げたのが「大切な種子を守る会」。在来の種子を守り、文化をつなげようと種の交換会を始め、みそ造りなどの活動を続ける▼交換会の会場に並ぶ種は、栽培場所や採取時期が記され、その小さな一つ一つの古里が想像できる。昔は嫁入り時に持参し、嫁ぎ先で種を広げた、という話も聞いた。お金が介在しない交換は、太古の営みのようで温かい▼東京地裁で24日、2018年の種子法廃止は憲法違反だとして、国に違憲確認などを求めた訴訟の判決がある。都道府県が管理していた種子を、廃止後は民間企業が独占し価格が高騰、安い遺伝子組み換え作物が出回り安全な食を得る権利が侵害されると、農家ら1500人が提訴した。町の片隅で、表舞台で、根幹の種をつなごうとする人がいる。(衣)