東京の御茶ノ水(お茶の水)という地名の通称は文字通り、江戸時代に「お茶」用の「水」を将軍家に献上したことに由来するとされる。その水でたてたお茶を、大名茶人の松平不昧(ふまい)(松江松平藩7代藩主・治郷(はるさと))は見事に言い当てたとの逸話が残る。茶道具だけでなく名水を鑑定する舌も確かだったようだ▼今でも水にこだわり、コーヒーやお茶、料理に湧き水を使う人たちもいる。家人もその一人だ。専用のポリタンクを用意して定期的に買いに行く▼欧州や中国大陸は、地質や地形の影響でカルシウムやマグネシウムが多い硬水だが、日本の水は溶け込むミネラル分が少ない軟水に分類される。水の違いは、お茶やコーヒーの味だけでなく料理の仕方にも影響する▼特に「水の料理」といわれる日本料理では、基盤となる昆布やかつお節を使った出汁(だし)はもちろん、吸い物やご飯を炊くのにも水を使う。欧州の硬水は灰汁(あく)の出る肉を煮込んだり、パスタをこしのあるアルデンテにゆでたりする場合はいいものの、日本料理には向かないらしい▼周囲の環境や人になじめないことを、昔から「水が合わない」と表現する。風土の一部と言える水の影響はそれほど大きいのだろう。ちなみに、一番おいしく感じる水の温度は、体温から25度を引いた10~11度だそうだ。久々の花見や歓送迎会などの予定がある人は、酔い覚ましに飲む水の参考にどうぞ。(己)