高校野球観戦の癖で、負けている方を応援してしまう。弱者に同情する判官びいきだ▼ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝も日本が3-1でリードすると、つい米国の応援に回り、1点差に詰め寄られて「そんな場合じゃない」と慌てた。相手は野球の母国。過去の日米野球で実力差を見せつけられ、強者中の強者と分かっているのに根深い癖である▼判官びいきは日本人が抱きがちな心情とされるが、万国共通だろう。この心理を利用してか、弱いふりをする〝偽弱者〟を見て思う。ウクライナに侵攻したプーチン大統領は「西側が戦争を始めた」とし、ロシアが脅かされていると話を変えた。トランプ前米大統領は交流サイト(SNS)に自身が「逮捕される」と書き込み「抗議しろ」と支持者に求めた▼権力は上から下へ力を及ぼす一方、下から上へ逆の力で支えられている。中国の歴代王朝も人心という逆の力を失うと、あっさり滅んだ。現代の権力者や強者も、それを失う恐怖は相当のはずだ。やたら強権的か広い意味での泣き落としで支持獲得を図ろうとするが、下が支える保証はない▼WBCに話を戻すと、MVPに選出された「二刀流」大谷翔平選手(エンゼルス)を軸とした侍ジャパンの結束力は素晴らしかった。決勝で相まみえた米国の結束と気迫もすさまじく、美しい試合だった。つかの間の判官びいきも許されよう。(板)